日本語の豊饒さ 再認識 恩田さん 評論新刊

 俳人で文芸評論家の恩田侑布子さん(SBS学苑講師)=静岡市葵区=が俳句をはじめとした文芸や芸術を論じた「星を見る人 日本語、どん底からの反転」(春秋社)を発刊した。功利主義がまん延し、死生観が浮薄化していく情報社会に対する危機感が執筆の原動力。読者に改めて日本語の豊饒[ほうじょう]さを提示し、その復権を呼びかける。

「昨年出した『渾沌の恋人{ラマン} 北斎の波、芭蕉の興』と新刊は対をなしている」と語る恩田侑布子さん=9月下旬、静岡市駿河区(写真部・久保田竜平)
「昨年出した『渾沌の恋人{ラマン} 北斎の波、芭蕉の興』と新刊は対をなしている」と語る恩田侑布子さん=9月下旬、静岡市駿河区(写真部・久保田竜平)

 2013年から23年までに書いた評論に、大幅に筆を加えた。石牟礼道子の全句集から自身に共通する「古里」のイメージを嗅ぎ取り、久保田万太郎の「やつしの美」を「けはい」「ミニマリズム」といったキーワードを用いながら多面的に論じた。
 2年間の新聞連載「俳句時評」から、芳賀徹(前県立美術館長)、有馬朗人(前静岡文化芸術大理事長)ら現代の文学者や俳人の視線と思考を簡潔に解説。最終章では松尾芭蕉「笈[おい]の小文[こぶみ]」を取り上げ、俵屋宗達の美術作品「扇面散屏風[せんめんちらしびょうぶ]」を換骨奪胎しようとした可能性を指摘した。
 背後にあるのは切迫感だった。「情報社会の進展につれ、人間は虚実の『実』より『虚』の世界、デジタルの薄っぺらい画面にどんどん取り込まれている」。地に足のついた暮らしから生まれたぬくもりある言葉を希求する中で、感情をふくよかにする日本語の使い手のありがたみを再認識したという。「日本語の豊かさ、繊細さをなんとか回復できないだろうか、という気持ちがあった」
 文学的な価値の高さを基準に選句し、背後に脈打つ文学史、おびただしい過去の作品群を参照した。20代、30代の俳人や高校生の句にもページを割いた。大御所の品格と同等に、若者の健やかさに愛情を注いだ。
 「日本語を真剣に愛し、17音の中で格闘してくれている。日本という国を言の葉で耕す営為。若い感性に日本語の未来を託したい」
 (教育文化部・橋爪充)

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