「情」排除 軽やかな静岡 地元で初個展 写真家・佐内正史さん(静岡出身)

 静岡市出身の写真家佐内正史さん(55)の個展「静岡詩」が、静岡市葵区の市美術館で開かれている。地元での個展は初。県内の風物を撮影した約40点は全て新プリントで、約100点とエッセーを収録した同タイトルの書籍も発行した。何げない日常を切り取る作風で知られ「写真は写真の個性を撮るもので、私の個性を撮るものじゃない」と公言する佐内さんにとって、生まれ育った場所を題材にした展覧会には格別の難しさがあったという。

佐内正史さん さない・まさふみ 1968年、静岡市生まれ。97年に写真集「生きている」でデビュー。2003年、写真集「MAP」で第28回木村伊兵衛写真賞。雑誌や写真集のほか、中村一義、くるりなどミュージシャンのジャケットやブックレットも手がける。シンガー・ソングライター曽我部恵一との音楽ユニット「擬態屋」も活動中。
佐内正史さん さない・まさふみ 1968年、静岡市生まれ。97年に写真集「生きている」でデビュー。2003年、写真集「MAP」で第28回木村伊兵衛写真賞。雑誌や写真集のほか、中村一義、くるりなどミュージシャンのジャケットやブックレットも手がける。シンガー・ソングライター曽我部恵一との音楽ユニット「擬態屋」も活動中。
佐内正史さん さない・まさふみ 1968年、静岡市生まれ。97年に写真集「生きている」でデビュー。2003年、写真集「MAP」で第28回木村伊兵衛写真賞。雑誌や写真集のほか、中村一義、くるりなどミュージシャンのジャケットやブックレットも手がける。シンガー・ソングライター曽我部恵一との音楽ユニット「擬態屋」も活動中。


 デビュー直後の1998年から断続的に撮影を続けた“静岡写真”に、今年4月以降の撮り下ろしを加えた。初夏の光を浴びる昼下がりの静岡市役所前、富士川河口の堤防、古びた動物の遊具がこちらを向く児童公園など、多くの県民になじみ深い風景が淡々と提示される。
 「オファーをいただいた時はうれしかった。でも、それは『静岡』だったからで、自分の古里、故郷、実家といったものがあるからではありません。それらは全部『情』につながってしまう。自分が撮っている写真とは正反対。だから、どうやって言葉の邪魔を排除して、軽く『静岡』を撮れるか考えました」
 2022年の写真集「写真の体毛」では国内外のさまざまな都市で撮影した。だが県内、とりわけ静岡市においては「写真家・佐内正史」と「(元)市民・佐内正史」の境界線が曖昧になる。世界で唯一の、特別な緊張を強いる場所だという。
 「意識して写真家・佐内正史でいなくちゃいけない。記憶とかノスタルジー(郷愁)とか、全部邪魔でした」
        ◇
 「写真って、二度と戻らない時間を切り取るもの。そこに自分の感傷を足すことはしたくありません。それをやったら、迷惑メールみたいになる」
 静岡の写真を自らの思い描く写真として成立させるために、展覧会の仮タイトルを「友達と静岡に行く」とし、県内のロケは友人を連れて実施した。
 「誰かと一緒に写真を撮りに行くと、少し構図がずれるんです。決めていた道からそれていく。目的もそれていく。自分の世界じゃなくなっていきます」
 撮影の道中は大きな声で話すことを意識し、時には脚立に上って視点に変化を加えた。通常は行わない作業を通じて、情とノスタルジーを注意深く排除した。
 「高いところから路上を撮ることに意味がある。地面から70センチ離れただけで、写真家佐内正史に戻れるんです。静岡の地上にいると『あっ、佐内くーん』みたいな情が入っちゃう」
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 撮影の作法について「シンプル」という言葉を多用して説明する。
 「ポーンって撮りたいんですよ。あれこれ考えずにただ単純にシャッターを押すものであってほしくて」
 2008年、写真家の矜持[きょうじ]を示そうと、自主写真レーベル「対照」を設立。初作「浮浪」以後、コンスタントに発刊する。今回の展覧会では全16冊を置いた。
 「写真家は、写真集を出すのが仕事だと思っています。それを自分でやろうと。別の世界、別の隙間から送られてくるような写真集。自分の写真ってちょっとそういうところがあるから」 (教育文化部・橋爪充)

 静岡市美術館、8月27日まで
 個展は8月27日まで。入場無料。7月23日午後2時から、「静岡詩の解対照」と題し、写真家若木信吾さん(浜松市出身)、アートスペース「VACANT」主宰の永井祐介さんとの鼎談(ていだん)イベントを開く。問い合わせは静岡市美術館<電054(273)1515>へ。

 さない・まさふみ 1968年、静岡市生まれ。97年に写真集「生きている」でデビュー。2003年、写真集「MAP」で第28回木村伊兵衛写真賞。雑誌や写真集のほか、中村一義、くるりなどミュージシャンのジャケットやブックレットも手がける。シンガー・ソングライター曽我部恵一との音楽ユニット「擬態屋」も活動中。

 

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