秋野不矩さん親子よみがえった合作 長男・癸巨矢さん宅に原画 絶版絵本、半世紀ぶりに復刻

 浜松市天竜区出身の日本画家秋野不矩さん(1908~2001年)と文筆家の長男秋野癸巨矢(きくし)さん(1933~2008年)が1969年に発刊した絵本「クリシュナのつるぎ」の原画が約半世紀ぶりに見つかり、絶版だった絵本がこのほど復刻に至った。

絵本の原画を手にする秋野等さん(左)。右は妻章子さん=8月中旬、京都市
絵本の原画を手にする秋野等さん(左)。右は妻章子さん=8月中旬、京都市
半世紀ぶりに復刻された「クリシュナのつるぎ」
半世紀ぶりに復刻された「クリシュナのつるぎ」
絵本の原画を手にする秋野等さん(左)。右は妻章子さん=8月中旬、京都市
半世紀ぶりに復刻された「クリシュナのつるぎ」

 原画は神戸市内の癸巨矢さん宅の書斎で妻美樹さん(62)が発見した。「昨年11月に13回忌を終え、年明けに遺品の整理をしていたら、引き出しから出てきた。手にした時は、原画の迫力におののいた」。不矩さんの作品の著作権管理などを行う一般社団法人秋野不矩の会(京都市)を通じて神戸市の出版社「BL出版」での復刻が決まった。
 インド神話に材を取った「クリシュナのつるぎ」は、ヒンズー教のクリシュナ神が主人公。誕生の場面から、悪政を敷くカンサ王との対決まで、癸巨矢さんの文がテンポよく物語を進める。不矩さんらしい赤や黄が映える絵が、動と静のコントラストを際立たせる。
 美樹さんによると、2人は連れだってインドに出掛ける機会が複数回あった。クリシュナの生誕地であるインド北部の都市「マトゥーラ」にも足を運んだ。現地の習俗を直接見聞した2人だからこそ、ヒンズー教の世界観を正しく理解した絵本を作り得たという。
 不矩さんの五男で「秋野不矩の会」代表理事の秋野等さん(77)は、クリシュナが大きな山を小指1本で持ち上げる絵本の場面を挙げ「母は、彼のこうした小気味よさが好きだった」と回想した。
 同じ引き出しから、癸巨矢・不矩コンビによるミクロネシア民話「アアウをとってこい」(76年)の原画も見つかった。こちらもBL出版で来夏復刻予定。2冊の原画は近く、浜松市秋野不矩美術館(同市天竜区)に寄託するという。
 (文化生活部・橋爪充)

 <メモ> 秋野不矩さんは多くの絵本を手掛けている。月刊絵本「こどものとも」には1957年、「うりひめとあまのじゃく」(案・浜田広介)で初登場。代表作に「きんいろのしか」(案・ジャラール・アーメド、再話・石井桃子)=68年=、「うらしまたろう」(再話・時田史郎)=72年=、「ちいさなたいこ」(作・松岡享子)=74年=などがある。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞