にぎわう「幸せ」の直売所 富士宮市・柚野地区【わたしの街から】

 富士山を望む富士宮市西部の山あいに田園風景が広がる「柚野の里」。国内最初期に人が定住を始めた縄文時代草創期の遺跡「大鹿窪遺跡」を抱える歴史ロマンあふれる場所。夏本番を迎えた里にはセミや風鈴の音、ツバメの声、川のせせらぎが響く。変わらない景色がここにある。

笑顔で出迎える渡辺正次さんと洋子さん
笑顔で出迎える渡辺正次さんと洋子さん
笑顔で出迎える渡辺正次さんと洋子さん


新鮮野菜に料理 渡辺さん夫妻の笑顔も 住民憩いの場に


 山あいを流れる芝川沿いにポツンと立つ、柚野農林産物直売所は4月に新装オープンした。地元で建築業を営む渡辺正次さん(78)と洋子さん(74)の夫妻が売りに出ていた土地建物を購入・改装し、新たに店の運営を始めた。田んぼ道を進むと、店先から焼きそばの香りが漂い、気さくな夫婦の笑顔が見えてくる。
  photo02 にぎわう直売所=富士宮市大鹿窪
 トウモロコシ、フルーツトマト、キュウリ…。地元農家らが運んできた新鮮野菜、洋子さんの手作り布製品や漬物が店先に並ぶ。毎週金曜は揚げ物を出す「フライデー」。地元野菜を使った洋子さん手作りのコロッケは“秘密のスパイス”が効いている。
  photo02 かき氷をほお張る地元の子ども
 市街地から嫁いだ洋子さんは、食堂を営む家に生まれ育った。長年の調理経験を生かして、店先に鉄板を広げて食事も提供する。一番の得意料理が「焼きそば」だ。主なメニューはほかにお好み焼きや焼きうどん。「食べた人はみんな幸せって言うよ」。洋子さんが笑みを浮かべる。夏季限定メニューのかき氷は正次さんの担当。正次さんは「うちのお母ちゃんはこれをやりたかった。応援してあげたかった」と経緯を語る。焼きそばとかき氷の相性は抜群だ。
  photo02 洋子さん自慢の焼きそば。「七味唐辛子をちょっとかけてごらん」
 オープンから約4カ月。認知度も徐々に上がり、住民の憩いの場所になっている。「お好み焼きをもらうよ」「ところてん冷えてるのある?」―。昼食時は地域住民や家族連れでにぎわう。他の地域からやってきて立ち寄る人も増えてきた。「楽しいよ。人が来ている時の方が疲れない」と正次さん。洋子さんは「来た人が『うまいうまい』と言って食べてくれることがうれしい」と喜ぶ。

 7月下旬、よく晴れた里山に富士山が顔を出していた。「お客さんはここに来ると癒やされるんだって」と洋子さん。「長く住んでいると分からないな。この景色が当たり前になってしまう。でも、縄文人もこの景色を見て住もうと思ったのかもな」。正次さんはそう語り遠くを見つめた。

 

柚野産ハチミツ初採取 現役世代の中心・長男洋正さん


 渡辺さん夫妻の長男洋正さん(51)は地域の現役世代の中心。家族らと営む「渡辺建築」の傍ら、仲間と野生在来種のニホンミツバチの養蜂に取り組んでいる。今年6月、柚野産ハチミツが初めて採取できた。
  photo02 ハチの巣箱を確認する渡辺洋正さん
 6年ほど前、仲間の一人、フジヤマハンターズビールを営む深沢道男さんと養蜂をやろうと話したことがきっかけ。大工の技術を生かし巣箱作りを引き受け、その後自分でも養蜂を始めた。「自分で作った箱にミツバチが巣を作ることが面白い。もともと自然と関わることが好きだから」

 洋正さんが作る箱は巣を整列させ、蜜を採取しやすくするため、スリットを入れるなど工夫がある。自然環境に近づけるため、1年は箱を外に放置することもポイントという。昨年は5群を箱に捕らえることに成功し、今年初めて採蜜できた。「来年はもっと採れそう」と期待を込める。

 ミツバチが柚野地域で集めた蜜には柚野の自然環境そのものが反映される。濃厚なのにフルーティーで爽やかな味わい。「柚野の百花蜜。深みがある」と魅力を語る。8月20日には両親が営む直売所で地元バンドを集めた音楽イベントを開き、採取した柚野産ハチミツを初めて販売する。

 里山保全に向けて、蜜源を増やす取り組みも進める。「心地よい自然が当たり前にある環境を守っていきたい」と先を見据えた。

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