障害者の介助情報一目で 防災用QRコード 浜松の浅羽さん考案

 障害者が大地震などに被災した際、周りに頼れる家族や介助者がいない場合はどう避難し、避難所生活を送ればいいのか-。突然の難病が原因で身体障害となった長女(30)の姿を見て不安を感じた浜松市南区の浅羽喜久子さん(55)が、支援に必要な障害や病気の情報を読み込んだ「防災用QRコード」を発案し、災害への備えとして普及に向けた活動を始めた。

家族の連絡先や支援に必要な障害の情報などを読み込んだQRコードを長女のベッドにつけ、災害時の避難に備える浅羽喜久子さん=7月下旬、浜松市南区
家族の連絡先や支援に必要な障害の情報などを読み込んだQRコードを長女のベッドにつけ、災害時の避難に備える浅羽喜久子さん=7月下旬、浜松市南区

 浅羽さんの長女は26歳だった2018年に原因不明の難病で身体にまひが生じ、21年12月には10分以上の心肺停止が原因で、寝たきりの状態となった。
 現在は人工呼吸器で呼吸し、喉には加湿器を装着している。ほかにも、たんの吸引や注射用蒸留水など、生きるために必要な作業や医療器具が多数ある。浅羽さんは「被災して家族が動いたり、指示したりできない状況に陥った時、これらの器具を判断して避難所へと運べる人はいるのだろうか」と心配する。
 解決策として思いついたのが、防災にQRコードを活用する方法だった。卸売会社に勤務した経験から、QRコードが簡単に作成できると知っていた。血液型や病名、家族の連絡先、必要な医療器具や処置を登録し、キーホルダーなどにして要支援者が身につけておけば、発災時に読み取るだけで必要な支援を理解できる。
 今春、浅羽さんは同市浜北区で開かれた市災害ボランティア連絡会のイベントで、防災用QRコードを発表した。その後、市危機管理課や障害福祉課に協力を求め、普及活動に踏み出した。現在は市内の避難所の防災倉庫に、QRコードを持参した要支援者への対応方法を記した注意書きが用意されている。
 浅羽さんは「役立つのは障害者に限ったことではない」と話す。介助が必要な高齢者をはじめ、健常者が意識を失った場合も救助に活用できる可能性がある。「避難所での聞き取り作業も大幅に短縮できるのではないか」と提案する。

 ■聞き取り効率化 期待
 福祉防災を専門とする同志社大社会学部の立木茂雄教授(66)は「行政や研究者が避難時の聞き取りにQRコードなどを用いた実験例はあったが、当事者が行政に働きかけたことは新しい動きで先進的」との見方を示す。
 昨年5月、災害対策基本法の改正で、障害者や高齢者の個別避難計画の作成が自治体の努力義務に位置づけられた。立木教授は「行政が作成を目指す個別避難計画とQRコードをひも付けし、近所の人や支援者へ避難方法などを共有できる方法として発展させれば、全国への波及も期待できる」と強調する。
 浜松市では7月、避難を不安視する声が上がっていることを受けて同市西、南両区の福祉事業所や区社会福祉課などでつくる「市障がい者自立支援協議会西・南エリア連絡会」が、災害発生時に備えた「福祉避難所」の設置訓練を行った。避難所の受付に想定以上の時間を要し、障害の特性によっては聞き取りが困難なケースも見られた。QRコードなどの活用を求める意見が上がったという。

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