石垣りんさん100年 未刊の詩325編、1冊に 南伊豆町教委

 伊豆ゆかりの詩人石垣りんさん(1920~2004年)の生誕100年を記念し、南伊豆町教育委員会が、所蔵する未刊の詩325編を収めた詩集を刊行した。生前、近しい人に「未刊詩集を出したい」と希望を伝えていたという石垣さん。“遺言”が成就したとも言える詩集は、県内の図書館で読むことができる。

生誕100年を記念して編まれた未刊詩集。325編が収まった=23日、南伊豆町立図書館内の「石垣りん文学記念室」
生誕100年を記念して編まれた未刊詩集。325編が収まった=23日、南伊豆町立図書館内の「石垣りん文学記念室」

 石垣さんは東京・赤坂生まれ。父親が南伊豆町の出身で、町立図書館の一角には09年、全国からの寄付で「石垣りん文学記念室」が誕生。ボランティアらが未刊詩などを整理してきた。
 南伊豆町教委は記念事業として当初、20年に記念式典やノンフィクション作家梯久美子さんの講演会などを計画していたが、新型コロナウイルスの感染が拡大。延期を検討したものの、最終的に中止を決めた。代替として未刊詩集の発刊を思い立ったという。
 今年3月に完成した詩集はA5判で約580ページに及ぶ。未刊詩リストのうち、無題の作品と時期などが不明な作品を除いて年代順に掲載した。挿絵には石垣さんが手掛けた年賀状の絵を利用。一般に販売はせず、賀茂地域の学校や県内全ての公立図書館に配布した。
 石垣さんは4歳の時に実母を亡くしている。「好きな勉強をするために自ら稼ごう」と14歳で銀行に就職したが、一家の大黒柱とならざるを得ない家庭事情の下、定年まで働き続けた。約10年に1冊のペースで4冊の詩集を出版し、「H氏賞」などを受賞している。
 未刊詩集には<この家に必要なのは/もはや私ではなく、私の働き/この家の中に私はこうして坐っているが/月給をいれた袋のよう>(「いじわるの詩」)などと、日々の暮らしでの素直な思いをぶつけた作品が並ぶ。戦争や公害に鋭く冷静に批判の目を向ける一方、伊豆を詠んだりユーモラスだったりする詩もある。
 公私ともに石垣さんと親交が深かった出版社「童話屋」(東京)の創業者で編集者の田中和雄さん(87)は「りんさんはいたずら好きで、少女のような人だった」と懐かしむ。「未刊詩集を読んでいると、りんさんの肉声が聞こえてくるよう。遺言めいたことが果たされ、りんさんも喜んでいるのでは」と話している。

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