時論(9月1日)稲盛和夫さん「利他の心」

 「ベンチャーの神様」稲盛和夫さんが死去した。90歳。京セラ、KDDI、日本航空と、采配を振った企業で、中高生に一番身近なのは通信サービス「au」を運営するKDDIだろう。
 「国民のため、何としても通信料金を下げなければ」と強い思いから1984年、第二電電企画(後のDDI)を設立。2000年にKDD、IDOと合併してKDDI発足に導いた。
 経験も知識もなかった参入当初、巨大な電電公社(現NTT)に挑むとは無謀とも言われた。しかし「動機は善なのか、私心はないのか」と自身に何度も問い、自分だけ金儲けしたいわけでも、京セラを有名にしたいわけでもないと確信を持って決断した。
 リーダーの心構えを説いた「利他の心」をはじめ、「心のあり方」を重んじた。多数ある著作でも「心」が繰り返される。若い世代には、「人生は心に描いたとおりになる」と著書「君の思いは必ず実現する」で激励した。
 この本で法話「極楽と地獄」を引用した。何人かがとても長い箸を持って大きな鍋からうどんを食べようとしている。他人の口に運んでやり、自分も食べさせてもらう極楽。われ先に食べようとして誰も食べられない地獄。心のあり方で極楽にも地獄にもなると。
 心とは。分かった気になっていたからか辞書を引くこともなかったが、日本国語大辞典を開いたら、慣用句、複合語等含め「こころわろ・い(心悪)」まで50ページ近くあった。心が広い、強いなどとよく言うが、稲盛さんは自著で「深い」を使っていた。講演会やセミナーに参加し、以心伝心で経営哲学を授かったという方も多いだろう。
 だいぶ前のau携帯CMで流れた「以心電信」という曲を思い出した。

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