SPAC演出「成長のチャンス」 三島由紀夫原作「弱法師」に挑戦 劇作家・石神夏希(静岡市)

 国内外で都市やコミュニティーを素材にした演劇やアートプロジェクトを手がける劇作家石神夏希(42)=静岡市葵区=が、県舞台芸術センター(SPAC)の新作演劇「弱法師[よろぼし]」(三島由紀夫作)を演出する。SPACの劇場作品の演出は初めてで、これまで多数演じられてきた三島の傑作戯曲への新たな挑戦となる。

10年ぶりの劇場作品演出について語る石神夏希=静岡市駿河区の県舞台芸術公園
10年ぶりの劇場作品演出について語る石神夏希=静岡市駿河区の県舞台芸術公園


 SPAC前芸術総監督の鈴木忠志ら著名演劇人4人によるプロジェクトの一環で、「次世代の日本の演劇人」が演出を担う企画。今年1月、現芸術総監督の宮城聰から声をかけられ、驚いたという。「宮城さんがA面なら自分はB面で、ニッチ(隙間)なジャンルの担当。正直『なぜ』と思ったが、中堅の人材を育てる企画と聞き、成長のチャンスと捉えている」と話す。
 神奈川県出身。1999年に高校の同級生と演劇集団「ペピン結構設計」を結成し、脚本や演出を担当した。近年は活動の場を劇場外へ。まちの人々が演者になる高松市仏生山町での「演劇まちあるき」などユニークな企画を実施し、まちづくりや「地域の活性化」にもつなげた。「作ったものを見せるだけでなく、その地域の人の『言葉になっていないもの』を聞く演劇を作ってきた」
 各地での活動を経て2020年、パフォーミングアーツを通じたまちづくりを目指す静岡市に移住した。同市まちは劇場プロジェクトでSBSのラジオ番組「きょうの演劇」ディレクターや、静岡鉄道の電車内での朗読劇を構成・演出を務めるなど、活動の幅を広げている。
 10年ぶりの劇場作品となる「弱法師」の原作は、三島が能の謡曲を近代劇にした戯曲。戦後15年、戦災で親とはぐれて失明した青年の親権を巡る2組の夫婦による調停の場が舞台で、青年の孤独や絶望が描かれている。
 三島の作品を「緻密に組み立てられた特殊な“工芸品”」と見る一方で、「背景にある物語の奥行きを見ていかないといけない」と向き合った。原作に感じた「救いのなさ」に対し、石神ならではの仕掛けを加え、絶望の先にあるものを表現する。
 「弱法師」は、富山県で11日まで開かれた「SCOTサマー・シーズン2022」で初演。17~19日に静岡県舞台芸術公園(静岡市駿河区)で上演する。各日とも午後3時半から。
 (文化生活部・山本淳樹)

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