時論(9月18日)常識としての拉致問題

 北朝鮮による日本人拉致が「疑い」から「問題」になって、もう20年である。初の日朝首脳会談で金正日[キムジョンイル]総書記は拉致を認めて謝罪した。金氏と小泉純一郎首相(当時)は日朝平壌宣言に署名し、国交正常化を目指すとした。
 拉致被害者とその家族が帰国したが、死亡と伝えられた横田めぐみさんの「遺骨」が別人のものと判明するなど、北朝鮮の不誠実な対応は新たな不信を生んだ。さらに核・ミサイル開発を進め、後継の金正恩[キムジョンウン]朝鮮労働党総書記は先日の国会演説で「核放棄はしない」と。関係改善は手詰まり状態だ。
 新聞記事は基本的に常用漢字を使う。「拉」が常用漢字に追加されたのは2010年。拉致はかつて「拉致(らち)」「ら致」と表記していた。
 「大学生ら致される」という見出しに中国文学者の高島俊男さんが1996年のエッセーで苦言を呈した。「大学生らが何をイタされるのか」。拉致は昭和の初めごろの和製漢語らしく、高島さんは軍隊で使われ始めたのではと推察していた(「お言葉ですが…」)。
 ほかに拉麺[ラーメン]しか思いつかない拉致の「拉」が日朝首脳会談の後で常用漢字に追加されたのは、拉致という言葉と拉致問題は日本人の常識として知っておくべきだということでもあろう。
 20年前、平壌に乗り込んだ小泉氏には官房副長官として後の安倍晋三首相が同行。安倍氏はその後も信念を貫いた。拉致問題が政治色を強めたことも解決が遠のいた一因とされる。
 拉致問題は「全て解決済み」と北朝鮮。そのトップにそうではないと直接伝わる外交を求めたい。帰国した拉致被害者の蓮池薫さんが16日付本紙朝刊で語った通り、時間は北朝鮮の味方ではないと認識させることが重要だ。

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