託児付き美容室 静岡県内じわり増加 多様な店舗形態に注目【解説・主張しずおか】

 技術だけでなく接客や店の印象も重要視される美容業界で、託児施設を設けて女性の従業員、客に配慮する店が県内で増え始めた。県美容業生活衛生同業組合によると、保育士まで雇う店は県内ではまだ珍しいという。女性の働きやすさや居心地の良さに対する工夫や配慮は社会的な課題で、その取り組みが広がるか注目される。

託児の様子が見える美容の施術室=浜松市浜北区のアンズ・ドゥー・キタハマ
託児の様子が見える美容の施術室=浜松市浜北区のアンズ・ドゥー・キタハマ

 8月下旬に浜松市浜北区にオープンした「ANS[’] DEAUX KITAHAMA(アンズ・ドゥー・キタハマ)」は施術室から託児ルームが見える。保育士が乳幼児の世話をきちんとできるよう、託児をする客の予約時間が重ならないようにしている。託児は従業員も利用可能で「安心感がある」と評判は上々だ。
 オーナーの太田記央(のりお)さん(42)は区内の別の店で約10年前から託児付き美容室を経営し、手応えを感じて今回の出店に踏み切った。幼い子を持つ母親が長時間の施術を受けるのが難しい問題や、母親美容師が働き続けるのを断念する事例を見聞きしてきた。「店舗の展開を通じ、こうした地域の課題を少しでも解決したい」と語る。
 2019年11月にオープンした同市東区の美容室「Rim(リム)」も保育士のいる託児室があり、オーナーの中村苑未さん(40)は母親美容師が安心できる職場づくりに取り組んできた。美容師の川上友衣さんは10月で1歳になる次女を9月まで託児した。「ほかの従業員も育児に理解がある。こうした店でなかったら仕事を続けるのはあきらめていた」と振り返る。
 美容室は増えている。厚生労働省の資料によると、20年度末時点で「美容所」は約26万施設と前年度比1・4%増。生活衛生課は「美容業は技術、接客サービス、店舗イメージのどれが欠けても顧客獲得が難しい」と動向を分析する。調査会社の矢野経済研究所によると、美容サロンの市場規模は22年度、売上高ベースで1兆4437億円(予測値)。新型コロナウイルス感染が拡大した20年度に前年度比で1千億円以上縮んだ市場規模は回復傾向にある。それでも同社は、規模の推移からサロンの利用控えがいまだ多いとみる。
 競争相手が多く、客の獲得も難しいという厳しい経営環境にある中で、地域の美容室が生き残っていくには、女性への配慮が一つの鍵となるのではないだろうか。

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