浜松市南区「江南教室」 外国籍中学生ら学び支える拠点 高まるニーズ、増設課題

 浜松市教委は今春、外国にルーツを持ち、日本の学校に初めて通う中学生を対象に初期の日本語指導を行う拠点校「江南教室」を、遠州灘海岸に近い同市南区の江南中に開設した。拠点校設置は市内で初めて。就学後に週4日のペースで10週間にわたり、基礎的な日本語指導と数学や社会科の授業を行う。日本の学校生活に円滑に適応できるように、集中的に支援する。

日本語で数学の授業に取り組む江南教室の生徒たち=9月下旬、浜松市南区の江南中
日本語で数学の授業に取り組む江南教室の生徒たち=9月下旬、浜松市南区の江南中


 9月下旬、江南教室では数学の授業が進められていた。テーマは「正負の数」。生徒は「マイナス3+プラス2」などの計算問題に真剣に取り組んだ。授業は日本語で進めるが、日本語が十分ではない生徒には通訳が補足説明する。休み時間には、生徒同士が日本語や英語で会話を楽しむ姿が見られた。
 生徒は週に1度は本来在籍している中学に通い、教員や同級生とコミュニケーションを図っている。ベトナム出身のニャット・アンさん(北星中2年)は「江南教室で日本語を学べて、北星中でも友達と話ができた」と充実した様子だ。フィリピンにルーツを持ち、4月から6月まで江南教室に通った竹村あゆみさん(開成中1年)は「日本に来た時は友達ができるか、勉強が分かるか不安だった。友達ができてうれしかった」とほほ笑む。
 9月から、5、6期生としてフィリピンや中国、ブラジル出身の生徒6人が教室に通う。これまでに修了した生徒は7人。開設当初に受け入れた1期生から、教室での支援を希望する生徒は途切れない。10月も、新たに4人が加わった。市教委の担当者は「予想以上に多い。こんなにニーズが高いとは」と驚く。
 江南中の教員やNPO法人の日本語教師らが学習指導に当たる。江南教室の担任の佐々木しのぶ教諭(50)は「言葉が通じない中で子ども同士が支え合い、生徒の不安感が軽減され、強みを出しやすい」と手応えを感じている。教室の教員は在籍校を訪問し、生徒の様子を報告する。修了後の支援についても話し合い、10週間の間に在籍校では受け入れ体制を整えるようにしている。
 市教委によると、市内の公立小中学校の外国籍児童、生徒数は1846人(5月1日現在)。昨年は、過去最高の1864人に上った。新型コロナウイルスの影響で日本へ入国できず母国で離れて暮らしていた子どもを親が呼び寄せ、長期滞在を希望する外国人が増えているという。
 日本の学校に不慣れな子どもの増加が予想される中、市内の拠点校は江南中1カ所にとどまる。浜北区から電車やバスを乗り継いで通う生徒もいる。生徒の体力や金銭的にも負担がかかるため、拠点校を増やせるかが当面の課題といえる。加えて、市内の外国人市民の多国籍化が進み、多言語の通訳人材を確保する難しさもある。いかにして、日本語だけで指導できるようにするかが鍵になる。
 教室の修了式は、生徒が保護者や在籍校の教員を前にスピーチを発表する。「将来、江南教室のような教室の先生になりたい」と夢を語った生徒も見られた。佐々木教諭は「修了後が生徒にとって本当のスタート。在籍校で役立つ内容を教えたい」と思いを語る。
 

子ども同士の交流尊重を
静岡大教育言語学 宇都宮裕章教授に聞く


photo03 外国ルーツの児童生徒への支援について語る宇都宮裕章静岡大教授

 外国にルーツを持つ児童生徒が日本語を効率よく学び、充実した学校生活を送るためには、どのような支援が必要なのか。日本語教育や教育支援に詳しい静岡大教育学部の宇都宮裕章教授に聞いた。
 -外国籍の児童・生徒に対する日本の教育支援の実情は。
 「地域や学校ごとに支援が細分化され、それぞれの環境の人材を生かした取り組みが求められている。以前は外国籍の子どもを対象に通常の教室とは別室で指導する“取り出し授業”で日本語に専念した指導を行うことが主流だった。だが、日本人の子どもたちと同じ教室で一緒に学ぶ方が高い効果が得られている。県内では、日本人の児童が外国ルーツの子どもと話すためにスペイン語を学ぼうとしたという事例もある。コミュニケーションを図ろうとして互いに学び合うことが期待できる。まずは日本語を教えなければいけない、という風潮ではなくなってきた。江南教室のような日本語指導を行う拠点校の設置は、全国的に広がっている。学校間の垣根を越えて連携を重視している傾向が強い」
 -現状の支援策の課題をどう考えるか。
 「これまでの、日本語に専念した取り出し授業のような指導が問題だった。今は改善に向かっている状況だ。子ども一人一人の事例を見ると、コミュニケーションが苦手など、さまざまな課題はあるだろうが、それは日本人の子どもも同じ。問題点として特別視してしまうと、指導方法が悪いとか、子どもが悪いといった視点になってしまいがち。言語教育は大切だが、周囲の理解があれば、言葉の習得が完璧ではなくても交流はできる」
 -支援を進めていく上で重要なことは。
 「子どもたちにとって、学びやすい教育環境をつくることが最も大切だ。学びの場や機会を、いかに多く提供できるか。例えば日本語教育で言えば、日本人並みの日本語レベルを身につけるような目標を掲げず、さまざまな背景を持つ子どもたちが一緒に学ぶことができるような、多様性を重視した学習環境づくりを目指すといいのではないか。静岡市などで外国人教育の現場を見ていると、違いを生かした取り組みが行われている印象を持った。外国にルーツを持つ子どもを受け入れた結果、学校自体がいい方向に変わった事例も見てきた。拠点校を増やすというだけではなく、それぞれの学校や地域で効果的な支援体制を確立したい。日ごろから、教師や日本語支援員が活発に意見交換しながら連携策を考えることも不可欠だ」

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