インフル同時流行対策 医療逼迫の懸念拭えず【8波に備える 新型コロナ㊦】

 「医療にかかれない人が出かねない」

第7波で通常診療や検査に追われた医療機関。インフルエンザとの同時流行に備えは欠かせない=19日、静岡市葵区
第7波で通常診療や検査に追われた医療機関。インフルエンザとの同時流行に備えは欠かせない=19日、静岡市葵区

 静岡市葵区の鈴木研一郎医師は、新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行が起きた際に採用するとして政府が公表した対処方針に不安を隠さない。
 内容は発熱外来やかかりつけ医の受診を高齢者や妊婦ら重症化リスクの高い人に優先。それ以外の人はまずキットでコロナを自主検査し、陰性ならオンライン診療などでインフルエンザかどうか診断してもらう。
 これに鈴木医師は「(いつでもどこでも受診できる)医療のフリーアクセスに制限をかけ、患者自身にリスクを判断させる流れだ」と手厳しい。オンライン診療の手法を含め「別の重大な疾患を見落とす恐れがある」と危惧する。
 感染爆発となった新型コロナ第7波は発熱外来が逼迫(ひっぱく)し、多くの診療所が忙殺された。国は9月末、発生届の提出方法を簡略化し、医療機関の負担を軽減。今回の政府方針も医療逼迫を回避するため、受診の交通整理を示した。
 県健康福祉部の後藤幹生参事は、対策がコロナとインフルエンザの対応のみにほぼ限定され、「他の発熱する疾患を無視したやや乱暴な設定だ」と鈴木医師と同様、実効性を疑問視する。導入のタイミングなど現時点で不明な点も多い。小学生以下は受診の「優先枠」に入り、結局は第7波のように外来や救急に診察希望が殺到する懸念が拭えない。
 県はコロナとインフルエンザを同時に検査できるキットを12万個購入し、冬場に備える。政府方針で示されたオンライン診療はそもそも実践する診療所が少ないため、発熱外来の実施施設を増やすなど、あくまで対面診療できる環境整備も模索する。
 後藤参事はその上で「国はコロナの(感染症法上の)5類緩和を視野に入れたはずで、より本質部分で逼迫回避を図るべきだ」と述べ、「濃厚接触者の廃止」を提案する。
 感染症法で2類相当にあるコロナの濃厚接触者は自宅待機を強いられる一方、5類のインフルエンザには行動制限の概念がない。
 後藤参事は濃厚接触者の陽性率がさほど高くないデータも念頭に「社会を回すためにも、仮に家族に感染者が出た人はいつも以上に対策に注意しながら普段通り行動できるようにしていく時期では」と指摘。高齢者らと接する職種に限って濃厚接触者の扱いを当面残す私案も示した。

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