縦横のつながり強化 進む研究 静岡型小中一貫教育、実施から半年

 静岡市の市立小中学校で本年度から、静岡型小中一貫教育が全面実施された。研究指定校である大里中グループ(駿河区)、安倍川中グループ(葵区)での半年間の取り組みを取材した。

探究活動で絵本を英訳して台本を作り、読み合わせをする「英語」グループの1年生=20日、静岡市駿河区の大里中(写真の一部を加工しています)
探究活動で絵本を英訳して台本を作り、読み合わせをする「英語」グループの1年生=20日、静岡市駿河区の大里中(写真の一部を加工しています)

 

「探究活動」の時間設定 大里中グループ

 

 大里中は20日、小中9年間の教育活動の柱にしている「探究活動」の時間を設けた。グループの大里西小、中田小と協議し、生徒の主体性や協働性を発揮するために▽課題設定力を高める▽外部の批評に触れる機会を設ける▽表現やプレゼンの機会を設ける―など五つの要点を共有している。1年は「自由な発想で幸せを形にする過程を楽しむ」がテーマ。「英語劇」「笑い」「静岡おでん」「化学ラボ」「絵本」など九つの中から好きな分野を選び、両小学校など地域での発表を目指す。
 生徒は班ごとに活動し、静岡おでんの魅力を全国に発信するためのパンフレット作成や英語劇に選んだ絵本の和訳、漫才をチェックするための動画撮影、学びにつながる化学実験の動画検索など、端末を活用して作業を進めている。「笑い」グループのある班で、実際にあった事件をモチーフにコメディー劇の脚本を仕上げた林泰隆さん(12)は「実際に創作して初めて、同じ場面で話をつなげていくことの難しさが分かった」と話した。
 2年生は「課題設定」をテーマに、幼稚園、花屋、自動車メーカーなど関心のある事業所を見学し「10年後に想定される課題を示す」という未来予測に挑戦している。従来型の「仕事に触れる機会」から踏み込んで、事業所で聞き取った内容をもとに、人口減少が業種に与える影響や、地域性をとらえた課題の抽出に取り組んでいる。教員側は「ハードルは高く、生徒にモチベーションが求められる」と難しさを受け止めつつ、的確な指導のあり方を議論するなどしている。

 

中1ギャップ解消狙う 安倍川中グループ

 

 安倍川中グループ(同校、駒形小、田町小)は「安倍川」をキーワードに、3校間または地域との連携を強めている。愛郷心を育てる学年ごとの教育テーマは小学1年の「学校が好き」から始まり、3年で「ふるさとを知る」、6年で「昔から今、未来へ」など、グループ内で共有し、授業に反映させる。本年度は、駒形小が単独で行っていた「安倍川もちの日」を合同開催したほか、各小学校が個別に行っている引き渡し訓練も初めて3校合同で実施し、小中に子がいる保護者が行動ルートを確認する機会を設けた。11月の中学体験会では2校の6年生を混成して班を作るなど、学校の枠を超えた交流の場作りを目指している。
 同級生の顔触れや教科担任制、先輩との関係など環境が一変することで不登校につながる「中1ギャップ」を解消したい―との狙いがある。安倍川中の坂本理華子教頭は「小学生のうちに中学の情報を得ておくことが大切。不安が具体化した場合、早期から対策を講じられる点でも入学前の交流には意義がある」と見据える。

 

子どもの変化、着実にとらえる 静岡・大里中グループ横井校長


 静岡市の静岡型小中一貫教育で本年度、モデル校となっている同市駿河区の大里中グループ(同校、大里西小、中田小)の横井利夫大里中校長に、前期の活動成果や今後の課題を聞いた。
半年間の取り組みを振り返る横井利夫校長=静岡市駿河区の大里中
 

 ―この半年間の活動の手応えは。
「グループ3校の全学年で『大里型PBL』(探究)に着手した。あいさつ運動をテーマに3校の児童会と生徒会が合同でリモート会議を行ったり、小6の学級担任を大里中に招いて就学支援を考える勉強会を開いたりと、児童生徒、教員間で連携を始めた。持続可能な取り組みにするには教員が手応えを感じることが重要だ。子ども自身が問いをつくることなどを目標に掲げる中、教員は子どもの輝きや変化を着実にとらえながら進めてほしい」
 ―小中学校で連携することで、どのような変化を見込むか。
 「教員同士の情報交換や対話により、自分が関わる1年間だけでなく、9年の中の何年目、という視点で見渡せる。大里中グループでは8月に全体研修会を開き、3校の教員120人が参加した。新型コロナウイルスの流行期でやや縮小したものの、各校で重視する活動を報告しあった上で、グループ議論をして双方の意見に触れた。大里中の学校運営協議員を務める静岡大の塩田真吾准教授の講話を受け、AI時代にこそ子どもの課題設定能力を伸ばすべきとの目標をあらためて共有することもできた」
 ―小中一貫の土台に「公平・公正な教育の実現」を据えている。
 「公立中は同じ地域の多様な子どもたちが集まるため、共生社会を体験できる。その強みを糧にするために、生徒には『誰もが』というマインドを持ってほしい。例えば体育祭で『クラスの優勝以上に、誰もが思い出に残る体育祭を考えて』と呼びかけるなど、私自身、意識の醸成に力を入れている。静岡市の不登校の現状や、大里中が駿河区で唯一通級指導教室を開いている特徴も踏まえると、教育の基礎とすべき概念として重要視している」
 ―年度末までに取り組むことは。
 「軸となる大里型PBLは、教員間で、児童生徒に身に付けさせたい資質能力について具体的な議論を進め、各学年の達成レベルを設定する方針だ。来年度以降、教員が意識して取り組むことを期待する。探究は『活動あって学びなし』とやゆされることがあり、そうならないよう注意したい。教員間の公平・公正の意識作りに向け、マルトリートメント(不適切な関わり)を起こさないよう、専門家による合同研修会を計画している」



 <メモ>静岡型小中一貫教育 中学校区単位を一つのグループとし、全43グループはそれぞれ、構成する小中学校間で教育目標を共有する。静岡市教委は9年間の系統性を「縦のつながり」、地域や学校間の連携を「横のつながり」とし、それぞれを強化する方針を打ち出している。中学校の立地や規模、地域との結びつきの強さ、一つの小学校区内が複数の中学校区に分かれているケースなど地域事情は異なり、課題も多様。市教委は2016年から準備を開始し、組織体制づくりや地域事情に応じた指導のあり方など、指定グループ校を設けて事例研究を進めてきた。

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