衣 着古しに技で付加価値【SDGs 1.5℃の約束③】

 流行に合わせて気軽に安い服を買い、汚れたら捨てる―。ファストファッションの隆盛により主流となったこうした生活スタイルが変わりつつある。廃棄後、原材料などとして再利用する「リサイクル」ではなく、お気に入りの品をデザインや伝統技術などで価値を高めて使い続ける「アップサイクル」が県内でも広がっている。

茶で染めた服に柄を入れる受講者=静岡市駿河区の「駿府の工房 匠宿」
茶で染めた服に柄を入れる受講者=静岡市駿河区の「駿府の工房 匠宿」
靴下に開いた穴を修繕する前島一雄さん=静岡市葵区の秋山毛糸店
靴下に開いた穴を修繕する前島一雄さん=静岡市葵区の秋山毛糸店
茶で染めた服に柄を入れる受講者=静岡市駿河区の「駿府の工房 匠宿」
靴下に開いた穴を修繕する前島一雄さん=静岡市葵区の秋山毛糸店

 10月初旬、静岡市駿河区の伝統工芸体験施設「駿府の工房 匠宿」で、衣類の染め直し講座が開かれた。灰色にも茶色にも見える風味のある色に染まったTシャツやワイシャツ、バッグ-。11人の受講者は自分が持ち込んだ品を手に取っていった。飲み物の染みが付いてしまったというブラウスを染めた女性(59)はしみじみと語った。「捨てなくて良かった」
 この色を生んだのは日本茶。商品にできず廃棄されてしまう茶葉を染料にし、その後は堆肥として活用する。施設で工房長を務める鷲巣恭一郎さん(43)が15年ほど前に確立した、静岡ならではの“循環型”の染色技法だ。個別に持ち込んだ衣類の染め直しも受け付けていて、最近は依頼が増えているという。鷲巣さんは「ニュアンスのある色が若い人に受け入れられているようだ。『静岡では汚れたらお茶で染め直す』という認識が一般的になれば」と期待する。
 「手を加えると、どんどん物に愛着が湧くんですよね」。こう話すのは静岡市葵区で「秋山毛糸店」を営む前島一雄さん(36)。穴やほころびを平織りの要領で補強する英国発祥の技法「ダーニング」を各地で伝えている。
 普通「修繕」と言えば生地と同色の糸を使って目立たないように仕上げるが、ダーニングは「あえてカラフルな糸を使い、デザインの一つにする」(前島さん)。必要な物は糸と針。穴を広げて縫いやすくするための専用の道具「ダーニングマッシュルーム」は、お玉や電球で代用できる。直径1センチの穴は30分程度で直せる手軽さで、「子どもの服が『いつも同じ所に穴が開く』と困っている子育て世代こそ挑戦してほしい」と薦める。
 前島さんは、着られなくなったセーターの毛糸をほどいて作り替える母親の姿を見て育ったという。「物を大切にする気持ちや、古くなっても直しながら使うという考えは、教育現場でなく暮らしの中で楽しみながら身に付けていくものだと思う」
 (文化生活部・鈴木明芽)

 <メモ>ファッション産業は原材料の調達から製造、輸送、廃棄に至るまで環境負荷が大きいとされる。環境省によると、服1着を作るための二酸化炭素(CO2)排出量は約25.5キログラム、水の消費量は約2300リットルに上る。服を手放す手段では約7割がごみとして廃棄されている。各メーカーによってリサイクルなどの取り組みが行われているが、1着にさまざまな素材が使われている上、生産段階での分業が進んでいるため効果や実態の把握が難しいという。
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 \チャレンジ/
 ・長く使いたい、使える物を選ぶ
 ・捨てる前に修繕できないか考える


 静岡新聞社はSDGメディア・コンパクトに加盟しています。 photo02

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