無痛分娩ニーズ高まり 高齢出産増・職場復帰を早く… 医療機関が体制強化

 出産の痛みを麻酔薬を使って取ったり緩和したりする無痛分娩(ぶんべん)のニーズが静岡県内でも高まっている。高齢出産や早期の仕事復帰を求める女性の増加に加え、新型コロナウイルス禍で出産の立ち会いができない妊婦の不安感などが背景にあり、導入する医療機関は体制を強化している。

無痛分娩で出産した次男を抱く小林由衣さん。「冷静に出産できた」と無痛の良さを語る=浜松市内
無痛分娩で出産した次男を抱く小林由衣さん。「冷静に出産できた」と無痛の良さを語る=浜松市内
無痛分娩で長女を出産し、1時間後に取材に応じた望月友夏里さん=静岡市内
無痛分娩で長女を出産し、1時間後に取材に応じた望月友夏里さん=静岡市内
無痛分娩で出産した次男を抱く小林由衣さん。「冷静に出産できた」と無痛の良さを語る=浜松市内
無痛分娩で長女を出産し、1時間後に取材に応じた望月友夏里さん=静岡市内

 静岡市駿河区の「くさなぎマタニティクリニック」は、本格的に始めた2020年に4%だった無痛分娩率が、22年は9月末時点で36%まで増えた。大橋涼太院長は「コロナ禍を機に求められる出産の在り方を考えた」と無痛分娩の導入経緯を話す。
 同院は週2日、麻酔科医が麻酔管理を行う。「多様な手術経験を持つ麻酔科医の麻酔技術は、産科医とは比較にならない」と大橋院長は強調。麻酔薬には副作用や非常にまれだが合併症のリスクもある。麻酔科医柏木邦友さん(43)は事故防止に向けて「異変に対応する助産師の力は大きい。妊婦自身も異変に気付けるよう事前説明が大切」と語る。
 県内でいち早く05年に無痛分娩を導入した浜松市東区の浜松医科大付属病院は、麻酔科医が手術室にいても分娩フロアにいる母子の心拍などを監視できるシステムを構築。3年前からは麻酔科医、産科医、助産師がチームを組み、緊急事態を想定した対応訓練を定期的に実施するなど体制強化を図ってきた。
 助産師小柳朝美さん(34)は「技術、チーム力が上がり、安心して関われるようになった」と手応えを話す。
 麻酔科医秋永智永子さん(48)は「妊婦に一番身近な助産師が推進役になり、チーム医療が円滑に機能している」と実感を込める。
 国は今春、無痛分娩に関する初の全国調査結果を公表した。20年9月時点の無痛分娩率は8・6%で、日本産婦人科医会による調査の16年度の6・1%と比べると増加傾向。無痛分娩に詳しい麻酔科医によると、都内で産院を開く場合、無痛分娩に対応しないと経営が成り立たないほど需要は高い。
 一方、国内では「痛みに耐えて母性が生まれる」という科学的根拠のない考えや麻酔のリスクの誤解などもあり、無痛分娩は一般化していない。秋永さんは「無痛分娩の利点や副作用、合併症を理解し、医療機関の体制や分娩方法を知った上で選択してほしい」と呼びかける。
 (社会部・佐野由香利)

 ■「痛み経験せずとも 母子の関係性変わらず」 経験者、理解と普及願い
 「痛みがなく冷静に出産できた。産後の回復も早く、3人目を産む場合も迷わず無痛分娩(ぶんべん)にする」。7月に浜松医科大付属病院での無痛分娩で次男を出産した浜松市中区の小林由衣さん(38)が断言した。
 長男の時は「痛みを経験した方がいいかも」と自然分娩を選んだが、陣通中に「なぜ無痛を選ばなかったかと後悔した」。「腰と尾てい骨に稲妻が走るような想像以上の陣痛だった。意識が飛びそうになり出産直後はぐったりだった」
 無痛分娩では「いきむ間も話ができ、出産直後もいろんなことを考える余裕があった」という。「痛みを経験しなくても母子の関係性は変わらない。陣痛は麻酔で消すものという考えに変わった」
 8月、静岡市駿河区のくさなぎマタニティクリニックで長女を出産した同区の望月友夏里さん(31)も無痛分娩を初めて経験。出産1時間後の取材に「落ち着いて出産を終えることができた」と笑顔を見せ、「費用のハードルが下がり、分娩の方法が選びやすくなれば」と普及を願った。

 <メモ>無痛分娩は麻酔薬を使って痛みを緩和または取る分娩。欧米では一般的。背骨の骨と骨の間にカテーテルを入れ、硬膜外腔(くう)に麻酔薬を注入する硬膜外鎮痛の方法が多く採用されている。鎮痛を始めるタイミングは陣痛が始まってからの場合と、計画的に陣痛を起こし妊婦が希望するタイミングで麻酔薬を入れ始めるなどさまざま。国は「無痛分娩に特別なリスクはない」と明言している。非常にまれだが、麻酔薬による合併症として全脊椎麻酔や局所麻酔薬中毒などのリスクがある。自然分娩に比べて費用が高くなる。

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