社会部 佐野由香利
さの・ゆかり 1988年、山梨県出身。2011年入社。整理部、社会部、島田支局、浜松総局を経て2回目の社会部勤務。現在は主に医療や教育取材を担当。コロナ禍では医療者の使命感に触れ、日本の医療の本質的な課題を目の当たりにしました。愛犬を溺愛する日々を送っています。
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難聴児、聞けて話せる 人工内耳や補聴器、療育で増加 「通常学級で聴覚使って」 医師が就学助言活動
人工内耳や補聴器の早期装用、適切な療育によって聞けて話せる難聴児が増えている。一方で、聞けて話せるため通常学級へ就学できると考えられる難聴児でも通常学級を選択していないケースがあることを県内の耳鼻科医らが問題視し、就学先を判断する保護者や就学支援委員会に医学情報や医師の意見を伝えて活用してもらおうと動いている。 「音声言語の獲得には聴覚活用を主にした療育が欠かせない」。人工内耳手術の実績を持ち、難聴児の支援体制構築に取り組む県立総合病院の高木明医師は語気を強める。難聴児支援の先進地・オーストラリアでは聴くことを重視した早期の介入で大きな成果を上げている。 口話のほか、口形や手の動きで日本
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静岡人インタビュー「この人」 難聴児の支援に取り組む 植田宏さん(静岡市清水区)
難聴児への理解、配慮を求める動画を作成した。難聴児の療育体制の構築にも力を注ぐ。県耳鼻咽喉科医会福祉医療委員会委員長。57歳。 -難聴児の未来が昔と変わっている。 「全く聞こえない赤ちゃんも難聴の早期発見、人工内耳や補聴器による補聴、適切な療育によって聞けて話せるようになり、通常学級に行ける可能性が高くなった。今は療育環境が不十分なため体制づくりに取り組んでいる。『難聴で生まれても安心して』と言える時代がもうすぐ来るかもしれない」 -動画作成の狙いは。 「通常学級で頑張ろうと思っても教師や友達が難聴の子どもに慣れていないため、本人が疎外感を感じたり、補聴器の装用を嫌がったりすることが
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医師の働き方改革24年4月開始 地域医療との両立に懸念の声
医師の時間外労働などを制限する「医師の働き方改革」が2024年4月から始まる。医師の長時間労働に支えられている医療実態の見直しが必要とされる一方で、医師不足の静岡県の医療現場からは一律の規制による地域医療の縮小を懸念する声が上がる。非常勤医師の応援で成り立つ産科有床診療所の中には、分娩(ぶんべん)の取り扱い中止を検討する所も出ていて、関係者は労働基準監督署の柔軟な対応を求めている。 「厳格な規制では事業継続が不可能な産科有床診療所が一層増える。地域の周産期医療を守れなくなる」。前田産科婦人科医院(焼津市)院長で日本産婦人科医会副会長の前田津紀夫医師(66)は危機感をあらわにする。 働き方
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学生ら地域課題解決案 藤枝で活動報告会 体験型観光商品など提言
ふじのくに地域・大学コンソーシアムはこのほど、自治体や企業が抱える地域課題の解決に向けて取り組んだ県内の大学生や大学教員、高校生の活動報告会をオンラインで開いた。 同コンソーシアムの助成事業に参加した大学ゼミなど38団体と、地域で独自に取り組む高校の5団体が藤枝市の静岡産業大藤枝駅前キャンパスから配信した。若年層の文化会館利用やICT(情報通信技術)を活用した伝統芸能の継承と普及など、多分野から若者視点で提案した。 県立大の「湖中真哉ゼミ」の学生たちは、藤枝茶を活用した20代女性対象の体験型観光商品を企画した。同大学生にアンケートを実施した上で、多種類の茶とチョコレートの組み合わせを味わ
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静岡県立総合病院 開設40年 高度先端医療を強化
静岡市葵区の県立総合病院(県総)が2月、開設40年を迎えた。これまで急性期医療の中核的役割を担い、地域医療の確保に取り組んできた。医療の進歩や患者のニーズに合わせた活動や成果を振り返り、今後の展望を探った。 22の大規模、多機能手術室 循環器疾患対応、成長著しく 県総の使命の一つは「高度・専門・特殊医療と急性期医療で第一級の病院であること」。2017年、完成した先端医学棟に全国的にも大規模となる県内最大の先進的な手術室を22室整備した。医療機器の大型・高度化や県内の医師不足に伴って県総に手術が集中する傾向などを受け、既存の手術室の移転拡張が不可欠だった。 MRIやCT、血管造影の各機能
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静岡県立総合病院 4月に精神科身体合併症病棟新設 地域偏在改善図る
静岡県立総合病院(静岡市葵区)が4月、静岡県中部・東部では初となる精神科身体合併症病棟を新設する。小西靖彦院長が14日までにインタビューに応じ、明らかにした。精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者への診療機能が求められている近年の医療ニーズに対応し、県内の地域偏在改善を図る。 病状に応じて部屋の間取りなどを変えることができる個室2床、感染症に対応した個室の陰圧室2床、一般の個室2床の計6床を備える。精神科病院からの転院を含む重症度の高い精神科身体合併症患者や救命救急センターを経由した自殺企図者、重症の自傷で治療を必要とする措置入院患者、精神障害がある重症感染症患者らを受け入れる。 運営母体であ
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難聴児の支援 早期介入重要 豪州の専門家講演
静岡県乳幼児聴覚支援センターは4日、難聴児の早期支援の先進地であるオーストラリアから療育専門家を招いた講演会を静岡市葵区の県立総合病院で開いた。 難聴児専門のリハビリテーション施設「シェパードセンター」の職員で言語病理学者のダニエル・ラムさんは、難聴児が健聴児と同程度の音声言語能力を獲得するために「早期介入し、通常の発育ペースに沿って成長することが重要」と強調した。 言語発達の臨界期とされる0~3歳を逃すことなく「聴くことを通じて言語と読み書きの発達の基礎を促すことが必要」と説明。オーストラリアでは各機関が連携して早期発見と診断、人工内耳や補聴器の早期装用を進め、同センターは生後6カ月ま
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「目指すまちづくり」テーマ 21日に特別講演、トークショーも 静岡済生会病院
静岡済生会総合病院の特別講演とトークショー(同病院済生会フェア実行委主催、静岡新聞社・静岡放送後援)が21日午後1時半~3時半、静岡市駿河区の県立大短期大学部講堂で開かれる。同病院を運営する社会福祉法人恩賜財団済生会の110周年を記念したフェアの一環。 同法人の炭谷茂理事長が「済生会が目指すまちづくり」と題して講演する。トークショーは、サッカー元日本代表の北沢豪さんや静岡市出身の歌人田中章義さん、同病院血液内科部長の竹内隆浩医師が登壇し「スポーツがつなぐ地域の未来」のテーマで意見を交わす。 参加無料。申し込みは平日午後1~4時に、済生会フェア事務局<電080(8670)6689>へ。
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記者コラム「清流」 一方通行の行政サービス
静岡市のマタニティー教室に参加しようと開催日を確認した。毎月のように市内の保健福祉センターで実施されている。だが、全て平日の昼間。諦めるしかなかった。 働く妊婦は少なくない今、行政の事業が社会状況に即していない部分を目の当たりにした。 市への問い合わせメールの返信は「必要があれば個別で対応する」とのこと。参加目的は同じ境遇の妊婦と直接交流することでもあるのに、と残念な気持ちになった。 土曜開催の市のヨガ教室では、参加者から土曜だから参加できたという声を聞く。初産や経産婦、周期の異なる妊婦が集まり、情報交換できる時間はいつも有意義で楽しい。行政サービスは、受ける側の気持ちに立つ視点がどれ
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筒状ニット「マフ」の中に手 認知症患者の心穏やかに 治療、ケア時の身体拘束軽減も
英国で認知症患者にミトン型拘束帯の代替として活用されている筒状のニット製品「マフ」が、静岡県内の医療機関や高齢者施設で普及し始めた。認知症の高齢者はマフの柔らかい手触りによって気持ちが穏やかになり、治療やケア時の身体拘束の軽減につながる効果が出ている。 「行動が落ち着き、よく寝るようになりました」。浜松市東区の浜松北病院の看護師渡辺照美さんは、マフに左腕を入れて眠る療養型病棟の認知症患者を優しい目線で見守る。マフの中には丸めた靴下を取り付け、患者はその柔らかい感触を味わうように左手でしっかりと握っている。 以前は無意識に手をかいて内出血を起こしていたため長時間ミトンを着用していたが、今は
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膣上皮内癌に安価な塗り薬 有効性証明、国際団体から表彰 静岡県立総合病院・小阪医師 発展途上国への貢献期待
静岡県立総合病院臨床診療部女性・小児センターの小阪謙三センター長(57)がこのほど、発展途上国の医学研究の推進を目的にしたIRPC(国際研究振興協議会、本部・インド)から2022年度表彰を受けた。膣上皮内癌(ちつじょうひないがん)に対し、他疾患で用いられる安価な塗り薬の有効性を証明した業績などが評価された。 IRPCは1993年に英国で設立され、毎年、主にがん患者の多い発展途上国の治療に寄与する業績を挙げた世界中の医学者や医師を表彰している。 小阪センター長によると、膣上皮内癌は比較的まれな疾患で、子宮頸(けい)癌治療で子宮を摘出後に残存していたHPV(ヒトパピローマウイルス)によって発
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繊細な気質「HSC理解し見守って」 静岡で交流会、悩みを共有
HSP未来ラボ静岡(漆畑智子代表)は18日、生まれつき敏感で繊細な成人「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」や子ども「HSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)」の交流会を静岡市葵区の番町市民活動センターで開いた。県内のHSPやHSCの子を持つ親など約20人が参加し、悩みを共有した。 参加者は相手の言葉を深く受け取ったり、人混みや大声に大きな疲労を感じたりする日常を打ち明けた。学校になじめない子どもを持つ母親は、教師が児童を叱責(しっせき)する姿に子どもが恐怖を感じていることを伝えた。 HSCの気質があり、中学時代に不登校を経験して現在は通信制高校に通う漆畑代表の長男(17)は
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生まれつき敏感、繊細 HSC・HSPを知って 静岡の漆畑さん、長男体験きっかけに仲間と啓発
生まれつき人の気持ちや環境に敏感で繊細な子ども「HSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)」や成人「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」がいることを知ってほしい-。静岡市葵区の漆畑智子さん(42)が、仲間と啓発活動に取り組んでいる。自身の体験も伝えながら、「当事者や周囲が生きやすくなるように」と理解を求める。 HSC・HSPは米国の心理学者アーロン博士が提唱した概念で、5人に1人の割合でいると言われる。深く考え、過剰に刺激を受けやすいなどの性質を持つ。刺激の多い学校では、生徒同士の悪口や教員の大声などが過剰刺激となり、不登校になることもある。 漆畑さんが概念を知ったのは長男(1
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進む教員の自己研さん 不登校対応、特別支援教育… 選択制研修参加で充実
静岡県総合教育センター(掛川市)が実施する選択制の教員研修の中で、不登校対応や障害のある児童生徒に向けた特別支援教育、ICT(情報通信技術)活用をテーマにした研修の人気が高まっている。学校教育における課題の複雑・多様化が進む中、教員は現場で必要となる資質や能力を身に付けようと励んでいる。 「欠席や遅刻が増えてきた生徒にどのような支援ができるか」-。今夏、同センターで開かれた不登校対応の研修に集まった県内の小中高、特別支援学校の教員約30人が、校内の事例検討会議を想定した演習に臨んだ。 専用シートを活用しながら、生徒の見立てとして家族や学校、地域それぞれに考えられる要因などを議論。学校での
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静岡県立総合病院を指定 HPVワクチン 接種後症状診療機関
静岡県は17日、子宮頸(けい)がんを予防するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの接種後に生じた症状を診療する協力医療機関に、静岡市葵区の県立総合病院を指定した。県内の協力医療機関は、浜松市東区の浜松医科大付属病院と伊豆の国市の順天堂大付属静岡病院と合わせて計3病院となった。 3病院は中核医療機関として、地域の医療機関からの紹介で接種後に症状のある患者を診療する。 県は4月からのHPVワクチン定期接種の積極的勧奨再開に伴い、県内の医療提供体制を強化するため、新たに協力医療機関を指定した。 ワクチン接種後に起こる症状は、他のワクチンと同様に接種部分の痛みや腫れ、不安によるストレスが原
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浙江省衛生委と医療交流促進へ 静岡県立病院機構が新協定
静岡県立病院機構(田中一成理事長)はこのほど、中国・浙江省衛生健康委員会との友好連携10周年記念として、同委員会と新たな友好協力協定を締結した。人事交流や研究分野の連携規模を拡大する。 両者の交流は1985年の医療従事者の受け入れから始まり、2012年の友好協力協定締結で人事交流はより活発化した。新型コロナウイルス感染症の流行では互いに医療物資を送り合った。 オンラインで締結式に臨んだ田中理事長は「研究や教育研修分野の協力を発展させ、成果を上げることを目指す。日中両国、東アジア全体の健康増進に寄与することを期待する」と述べた。同委員会の孫黎明副主任は「今回の協定で新たなプラットフォームが
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ペット避難、対応円滑に 避難所に支援ボックス 静岡市動物指導センター、75地区防災倉庫に配備へ
静岡市動物指導センターは今月末までに、災害時に避難所で適切にペットの飼育管理を行うためのマニュアルや備品をまとめた「避難所ペットスペース設営ボックス」を市内75地区76カ所の防災倉庫に配備する。ペットと同行避難した被災者が適切に行動し、一般の被災者と生活空間を分けながら上手に避難所を共有できるよう支援する。 マニュアルは、ペットスペースの設営や運営、飼い主不明動物の飼育・管理、動物救護対策本部との連絡調整など4班に分かれて活動するよう求め、それぞれの役割や作業手順を記した。スペースの区割り用のロープやブルーシート、はさみなどの備品をそろえた。飼育ルールを記した案内板を用意し、ペットを飼って
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犬と同行避難を訓練 静岡の専門学校 ペット防災の人材育成
近年風水害が相次ぎ、南海トラフ巨大地震の発生が予想される中、静岡市清水区の中央動物総合専門学校がペットの防災知識を持つ人材の育成に力を入れている。今後動物に関わる職種に就く学生が、ペット防災の意識を社会に浸透させる役割を担うことを期待する。 27日、大規模災害が発生したとの想定で、2年生約100人が小型犬や中型犬計12匹との同行避難や避難所で飼育スペースを運営する訓練に臨んだ。大半が静岡市認定の「ペット防災アドバイザー」の資格を持った学生で、これまでの学びを実践した。 JR清水駅東口広場をペットの受け入れが認められた小学校校庭の避難所と見立て、同校から約500メートル離れた同広場まで、犬
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無痛分娩ニーズ高まり 高齢出産増・職場復帰を早く… 医療機関が体制強化
出産の痛みを麻酔薬を使って取ったり緩和したりする無痛分娩(ぶんべん)のニーズが静岡県内でも高まっている。高齢出産や早期の仕事復帰を求める女性の増加に加え、新型コロナウイルス禍で出産の立ち会いができない妊婦の不安感などが背景にあり、導入する医療機関は体制を強化している。 静岡市駿河区の「くさなぎマタニティクリニック」は、本格的に始めた2020年に4%だった無痛分娩率が、22年は9月末時点で36%まで増えた。大橋涼太院長は「コロナ禍を機に求められる出産の在り方を考えた」と無痛分娩の導入経緯を話す。 同院は週2日、麻酔科医が麻酔管理を行う。「多様な手術経験を持つ麻酔科医の麻酔技術は、産科医とは
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静岡赤十字病院が頭痛センター開設 専門外来を拡充
静岡赤十字病院(静岡市葵区)は、従来の頭痛専門外来の規模を拡充した「頭痛センター」を開設した。担当医を増やし、最新治療をより多くの患者に提供する。 同病院によると、昨年から片頭痛の新薬が次々と登場し、従来の治療薬では改善しなかった頭痛が減少する患者が増えている。処方する上で、専門医による適切な診断が必要になる新薬もあるという。 2人の専門医で初診患者に対応し、2人の若手医師が再診を担当する。センターは、頭痛専門医を目指す若手医師の教育の場としての役割も担う。 同病院脳神経内科の今井昇部長は「薬物治療だけでなく、多職種による多様な治療やケアを組み合わせた『集学的治療』も積極的に進めている