医師の働き方改革24年4月開始 地域医療との両立に懸念の声

 医師の時間外労働などを制限する「医師の働き方改革」が2024年4月から始まる。医師の長時間労働に支えられている医療実態の見直しが必要とされる一方で、医師不足の静岡県の医療現場からは一律の規制による地域医療の縮小を懸念する声が上がる。非常勤医師の応援で成り立つ産科有床診療所の中には、分娩(ぶんべん)の取り扱い中止を検討する所も出ていて、関係者は労働基準監督署の柔軟な対応を求めている。

妊婦に心配事を尋ねる前田津紀夫医師。医師の働き方改革で地域医療の縮小を懸念する=2日、焼津市の前田産科婦人科医院
妊婦に心配事を尋ねる前田津紀夫医師。医師の働き方改革で地域医療の縮小を懸念する=2日、焼津市の前田産科婦人科医院
医師の働き方改革(2024年4月~)
医師の働き方改革(2024年4月~)
妊婦に心配事を尋ねる前田津紀夫医師。医師の働き方改革で地域医療の縮小を懸念する=2日、焼津市の前田産科婦人科医院
医師の働き方改革(2024年4月~)

 「厳格な規制では事業継続が不可能な産科有床診療所が一層増える。地域の周産期医療を守れなくなる」。前田産科婦人科医院(焼津市)院長で日本産婦人科医会副会長の前田津紀夫医師(66)は危機感をあらわにする。
 働き方改革は、医師の時間外労働時間の上限を年960時間とし、地域医療の確保や医療技能の向上が必要な場合には例外として年1860時間が適用される。厚労省が示す19年調査では、勤務医の4割弱が年960時間以上、約1割が年1860時間を超えて勤務している。
 働き方改革の施行を前に、各大学病院は非常勤医師を派遣する医療機関に、非常勤医師の休日日勤や夜勤を時間外労働時間に含まれない「宿日直」として労基署から許可を得るよう求めている。非常勤医師の当直支援が欠かせない診療所は宿日直許可を得る必要が出てくるが、宿直は週1回、日直は月1回が条件。「現実的な運用ではない」という声は多い。
 前田医師は都市部で進む産科の集約化が地方でも加速する可能性を指摘し「県内の分娩の半数は開業医が行っている。集約化は地方の妊婦にとってアクセスが非常に悪くなる」と話す。
 非常勤医師の応援を受ける在宅医療の現場でも働き方改革の影響は大きい。坂の上ファミリークリニック(浜松市中区)などを運営する医療法人社団心の理事長で県医師会理事の小野宏志医師(53)は「終末期に暮らす場所は自宅の満足度が高い。在宅医療の必要性が高まる中、十分な医療が提供できなくなるかもしれない」と切実だ。その上で「過労死はいけないが、働き方改革だけで幸せになるとは思えない」と訴える。

 <メモ>静岡県の人口10万人当たりの医師数は219・4人で都道府県別で40位。なかでも病院勤務医が142・2人、40位と低く、診療所の医師は77・2人で29位に位置する。医療圏ごとで人口10万人当たりの医師数が最も少ないのは富士で、中東遠、賀茂と続く。
 厚労省が示す19年の診療科別調査によると、働き方改革で時間外労働時間の最大上限とされる年1860時間換算を超える医師の割合が高いのは救急科や外科、脳神経外科、産婦人科。卒後3~5年目の若手医師の割合も高い。

 浜松医大病院 派遣先支える責務強調
 静岡県内外の医療機関に非常勤医師を送る浜松医科大付属病院(浜松市東区)は働き方改革に向けて新たなシステムを導入し、昨年から近隣病院と電子カルテの共有を始めた。緊急時などに迅速に対応できるよう院外で待機する「オンコール」医師にも外部用の端末を配布し、呼び出し回数を減らすことで医師の負担軽減を図っている。
 病院同士は電子カルテを共有しながら患者の急変時や治療方針などを確認・相談ができ、スムーズな転院受け入れが進む。浜松医科大付属病院の各診療科の医師はこれまで院内での当直が多数を占めていたが、オンコール対応を増やし当直回数を減らした。
 働き方改革に伴い、大学病院が外部に派遣する医師を引き上げる動きが懸念されている。同病院の松山幸弘院長(61)は「産科や小児科など診療科によっては応援がないと困る地域がある。医師の外部勤務先、地域医療を守りたい」と語り、自院での勤務状況の見直しを進めながら派遣先の医療機関を支える責務を強調する。
 大学病院の給与は一般病院に比べて低く、大半の医師が外部の病院で“アルバイト”をして成り立っている側面もある。

 

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