静岡県立総合病院 開設40年 高度先端医療を強化 

 静岡市葵区の県立総合病院(県総)が2月、開設40年を迎えた。これまで急性期医療の中核的役割を担い、地域医療の確保に取り組んできた。医療の進歩や患者のニーズに合わせた活動や成果を振り返り、今後の展望を探った。

広く機能的な手術室。高度先端医療を安全に提供している=静岡市葵区の県立総合病院
広く機能的な手術室。高度先端医療を安全に提供している=静岡市葵区の県立総合病院
県立総合病院から桜ケ丘病院に派遣された寺田修三医師。幅広い内科診療への対応にやりがいを感じている=静岡市清水区の桜ケ丘病院
県立総合病院から桜ケ丘病院に派遣された寺田修三医師。幅広い内科診療への対応にやりがいを感じている=静岡市清水区の桜ケ丘病院
診療と並行して難聴の研究に取り組む高木明医師=静岡市葵区の県立総合病院
診療と並行して難聴の研究に取り組む高木明医師=静岡市葵区の県立総合病院
小西靖彦院長
小西靖彦院長
広く機能的な手術室。高度先端医療を安全に提供している=静岡市葵区の県立総合病院
県立総合病院から桜ケ丘病院に派遣された寺田修三医師。幅広い内科診療への対応にやりがいを感じている=静岡市清水区の桜ケ丘病院
診療と並行して難聴の研究に取り組む高木明医師=静岡市葵区の県立総合病院
小西靖彦院長


22の大規模、多機能手術室 循環器疾患対応、成長著しく
 県総の使命の一つは「高度・専門・特殊医療と急性期医療で第一級の病院であること」。2017年、完成した先端医学棟に全国的にも大規模となる県内最大の先進的な手術室を22室整備した。医療機器の大型・高度化や県内の医師不足に伴って県総に手術が集中する傾向などを受け、既存の手術室の移転拡張が不可欠だった。
 MRIやCT、血管造影の各機能を持たせた3種類のハイブリッド手術室や照明色を自由に変えられる鏡視下手術室の5室、手術支援ロボットに対応した2室など広く多機能な手術室をそろえた。術後ハイケアユニット(HCU)や病理検査室を隣接させ、患者や検体搬送のスムーズな動線確保にもこだわった。外科系医師らは「手術がしやすく、より安全にできる」と口をそろえる。
 手術件数は整備前に当たる16年度の年間8536件から19年度は9814件まで増加した。20年度以降、新型コロナウイルス感染症の対応で減少する中でも年間9千件超の手術を実施している。緊急手術にもより迅速に対応できるようになった。外科系の強さが病院経営に与える影響は大きい。
 中でも循環器疾患治療の成長は著しい。19年には県内で初めて患者の負担軽減の利点があるロボットを使った心臓手術が可能になり、現在でも全国で27カ所しかない病院の一つだ。最先端の五つの心臓カテーテル治療も県内で唯一全て対応している。
 心臓血管外科部長の恒吉裕史医師(53)は「地方でも都市圏と同じような治療が提供できるように、静岡でできない循環器医療はなくそうという思いで皆一丸になっている」と熱く語る。
 最新鋭の大型放射線機器に対応できる治療室も整備し、より高精度で身体に優しい放射線治療が提供できるようになった。

桜ケ丘病院へ医師派遣 地域連携、課題解消へ
 2021年から、医師不足に悩む静岡市清水区の桜ケ丘病院に常勤内科医師を派遣している。病院閉鎖も選択肢にあった同病院を支援すると同時に、県総にとっても課題だった中長期の入院患者の転院先が確保できるようになった。
 連携は医療機関の機能分担や業務連携を推進する地域医療連携推進法人制度を活用した。両病院は同年、県内で初めて認定された法人「ふじのくに社会健康医療連合」の参加施設となった。その後、静岡社会健康医学大学院大も参画した。
 人口10万人当たりの病院勤務医は同市葵区が334人に対して、清水区は50人を割る。桜ケ丘病院は、清水区の内科救急の7割を担い、同病院の閉院は地域の救急医療の逼迫(ひっぱく)にもつながる懸念があった。県総の小西靖彦院長は医師派遣とともに「急性期の依頼は何があっても受け入れる」と支援の責務を強調する。
 当初2人だった桜ケ丘病院の常勤内科医師は、派遣を含めて6人に増えた。市内からの転院は19年度の99人から22年度は214人を受け入れ、県総の患者も2倍以上受けられるようになった。救急車の応需件数も増えている。
 県総から昨年12月以降に派遣されている寺田修三医師(39)は「幅広い内科診療ができ勉強になる。県総との連携も取りやすい」と充実感を口にする。派遣から1年半がたった原田高根医師(41)も、専門の総合診療により携わることができるようになったという。
 看護師同士の交流も進む。桜ケ丘病院で管理者研修に参加した県総の望月恵美子副看護師長(50)は「各病棟が経営を意識し、データ分析から対策を考えて全体で共有していた。非常に勉強になった」と振り返る。
 桜ケ丘病院の森典子院長(68)=元県総副院長=は「地域の医療レベルは確実に上がっている」と実感を込める。

診療と臨床研究両立 人材育成、確保に注力
 診察の中で生じた疑問を研究し、病気の予防や改善、治療に役立てる臨床研究にも力を入れている。2017年に「リサーチサポートセンター」を開設し、医師が診療をしながら研究ができる環境を用意した。
 人工内耳手術の実績を持ち、難聴児の支援体制の構築に取り組む移行医療部長の高木明医師(70)=静岡社会健康医学大学院大教授=は臨床研究にも注力する一人。人工内耳を装用した子どもが歌うメカニズムを調べている。
 人工内耳は蝸牛(かぎゅう)の代わりに音を電気信号に変換し、神経を刺激して脳へ電気信号を送る機器だが、電気信号には音程情報がない。周波数の違いを区別する能力や音の時間的変化に対応できる解像度が良いと音程がつかめるのでは-という仮説を立て、人工内耳を装用する患者の脳の血流検査やデータ分析などを進めている。
 県総を運営する県立病院機構が慶応義塾大大学院医学研究科と連携協定を結んだことで、博士号も取得できるようになった。高木医師は「臨床と研究の両方に取り組みたい医師は多い。魅力的な環境」と話す。
 医療スタッフや学生が手技を習得するシミュレーターや模擬病室などを備えたメディカルスキルアップセンターも設置し、人材育成や確保を図っている。

小西靖彦院長に聞く〝最後の砦〟責務担う
 県総が開設されて40年。小西靖彦院長(65)に節目を迎えての思いや地域における役割、今後の展望を聞いた。
 -開設40年をどう感じるか。
 「私が京都で医者になった翌年、静岡に大きな病院ができたようだという話を聞いた。京都大の関連病院の中でも大きく、教育の点でも非常に重要な病院。これまでも、そして今後も静岡県に貢献する責務は大きい」
 -病院の役割は。
 「最後の砦(とりで)として県民の健康と医療を守ってくれるという患者のニーズがある。絶対的に応えていかなければいけない。特にこの10年は高度急性期医療の展開が加速した。広々とした22の手術室を整備し、カテーテル治療やロボット手術など先端医療は強くなった。県の支援も受けて多くの投資をした。高度急性期医療を今後も展開し、県民に還元していく。もう一つは医療者の人材育成。ここで育った医療者が県内の各地域でさまざまな医療を展開できるように教育することにも責務を担っている」
 -今後強化するべきことは。
 「医療者の教育により力をいれたい。全国10位の人口を持つ県としては、病院勤務医が非常に少ない。静岡に貢献したい志を持つ医療者が活躍できる体制を作りたい。若い医師を呼び込むには指導医の充実が欠かせない。行政や医療機関同士の連携も必要。地方で働く医師が家族の元へ帰る休日に代わりとなる医師を呼ぶ-こういう部分に支援をするなど方策が求められる。臨床研究ができる病院になることも重要だ。医師にとっても魅力になる。研究マインドを持った臨床医はしっかりとした医療ができる。次の10年は『県総と言えば静岡のあそこだね』と言われる病院にしたい。実力は十分にある」

 <メモ>前身は1948年に旧静岡市追手町に開設した県立中央病院。51年に旧静岡市鷹匠町に移転。83年2月、同病院と旧清水市の県立富士見病院が統合し、現在の静岡市葵区北安東に県立総合病院として開設した。2009年から地方独立行政法人県立病院機構が運営する。病床は712床。22年4月1日現在、医師326人を含む職員数は1840人。

高リスクがん患者受け入れ
 小児以外のほぼ全てのがん疾患を診療する。症例数は大部分のがん疾患が全国50位以内に入る。多様な疾患に対応できるのが特長で、心臓病や糖尿病、呼吸器疾患など内科疾患を合併したハイリスクのがん患者も受け入れる。
 がん診療部長の大場範行医師(65)は「各診療科が協力して治療に当たることができている」と話す。複数の診療科が合同で手術を行う多科合同手術は珍しくない。伊豆など県内遠方からも患者が訪れる。
 病状に応じて放射線や抗がん剤投与、外科的切除を単独または適宜組み合わせて適切な治療を実践する。薬剤師も抗がん剤の調剤だけでなく、投与のスケジュール管理や検査・投薬の提案など積極的に治療に関わり、チーム医療を重視する。
 患者や家族のつらさ、心配事には多職種で組む緩和ケアチームが対応し、がん患者のサロンも開催する。2020年には高度型の地域がん診療連携拠点病院として県内初の指定を受けた。

救急・災害重症に強み
 県内に2カ所ある高度救命救急センターの一つとして、救命救急センター機能に加え広範囲熱傷や指肢切断、急性中毒などの特殊疾患患者の治療を担う。救急専門医は6人と県内でも多く、重症対応に強いのが強みだ。
 高齢化により対応件数は年々増えている。年間約5500件の救急車を受け入れ、9割以上は救急科のスタッフが対応するため病態の見落としが少ない。ドクターカーで医師が現場に直行することもあり、難しい体勢での気管挿管や胸に穴を開けて空気を抜く処置などを迅速に行い、救命率を上げる。多数傷病者が発生した際は、現場で症状に応じた患者搬送の采配を振るうこともある。
 高度救命救急センター長の登坂直規医師(56)は今後に向けて「重症者をより多く受け入れ、対応力を上げたい。学術分野にも力を入れて後進を増やす必要がある」と語る。
 県総は基幹災害拠点や原子力災害拠点の病院でもある。複数のDMATを持ち、災害時には自院以外でも活躍する。平時には、災害拠点病院の機能強化を図るため訓練や研修を実施するなど中心的な役割を担う。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞