筒状ニット「マフ」の中に手 認知症患者の心穏やかに 治療、ケア時の身体拘束軽減も

 英国で認知症患者にミトン型拘束帯の代替として活用されている筒状のニット製品「マフ」が、静岡県内の医療機関や高齢者施設で普及し始めた。認知症の高齢者はマフの柔らかい手触りによって気持ちが穏やかになり、治療やケア時の身体拘束の軽減につながる効果が出ている。

マフの中に手を入れて穏やかに眠る患者=11月上旬、浜松市東区の浜松北病院(写真の一部を加工しています)
マフの中に手を入れて穏やかに眠る患者=11月上旬、浜松市東区の浜松北病院(写真の一部を加工しています)
多彩なデザインで作られた柔らかい手触りののマフ
多彩なデザインで作られた柔らかい手触りののマフ
マフの中に手を入れて穏やかに眠る患者=11月上旬、浜松市東区の浜松北病院(写真の一部を加工しています)
多彩なデザインで作られた柔らかい手触りののマフ

 「行動が落ち着き、よく寝るようになりました」。浜松市東区の浜松北病院の看護師渡辺照美さんは、マフに左腕を入れて眠る療養型病棟の認知症患者を優しい目線で見守る。マフの中には丸めた靴下を取り付け、患者はその柔らかい感触を味わうように左手でしっかりと握っている。
 以前は無意識に手をかいて内出血を起こしていたため長時間ミトンを着用していたが、今は経管栄養の時だけに拘束時間が減った。「マフはミトンと違って指先が自由に動かせるため血行にも良い」という。
 ミトンは犬好きで織り屋だった患者の好みに合わせ、裁縫が趣味の渡辺さんが工夫を凝らした。「患者のことを思って作るのは楽しい」と笑顔で話す。
 5月から導入した磐田市立総合病院でも、患者の身体拘束の解除や患者と職員との円滑なコミュニケーションにつながっている。同病院認知症看護認定看護師の田森智美さんは「入院や治療への不安感が強い患者への効果が感じられる」と話す。「職員がそばにいると患者の心が穏やかになるが、その時間を十分に取ることは難しい」と多くの患者を受け入れる急性期病院の職員ならではのジレンマを抱えるが、今はマフがその役割の一部を担っている。マフをきっかけに患者と職員の会話が弾む光景も多く生まれているという。
 同病院副看護部長の大石由美子さんは「マフの活用によって職員の中で身体拘束を減らす意識ができたことは大きい」と語る。
 マフ作りは田森さんの他、地域の編み物グループも協力してくれている。
 マフの普及に取り組む浜松医科大医学部看護学科の鈴木みずえ教授は「マフの刺激で心が癒やされ、心身機能やコミュニケーションの活性化が期待できる。上手な活用によって患者やスタッフの互いの優しさがつながる瞬間が生まれる」と強調する。

 <メモ>マフは多彩な色を使って筒状に編んだニット製品。ボタンやリボン、ワッペンなどで飾り付け、筒の中には握って感触を楽しめる毛糸玉などを入れている物もある。認知症の人の落ち着かない手を温かく保ち、触覚や視覚を用いたケアに活用。英国では一部地域の救急車にも装備され、搬送時に活躍している。

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