増える移動販売車 磐田で連携体制づくり 持続可能な仕組み必要【解説・主張しずおか】

 静岡県内で食料品や日用品の移動販売車を営業する事業者が増えている。磐田市と市社会福祉協議会は事業者の連携体制づくりに着手した。高齢者ら買い物弱者の支援につながる移動販売車。過度な競争を回避し、事業者が共存・協調することで、支援を必要とする市民に持続的にサービスが行き渡る仕組みを構築してほしい。

買い物弱者への支援につながっている移動販売車=26日、磐田市内
買い物弱者への支援につながっている移動販売車=26日、磐田市内

 磐田市と市社協は8月、市内の移動販売事業者を集めて情報交換会を初開催し、運行状況などの情報を集約した。今後、運行ルートが重複しないようにするなどの調整を図る。
 行政が民間ビジネスの調整に関与するのは珍しい。市があえて連携強化に乗り出したのは、路線バスの撤退が相次ぎ、1人暮らしの高齢者が増えている中で、移動販売車を市民生活を支える“社会インフラ”の一つと捉えているからだ。
 市内では今年3月以降に、3事業者が移動販売に参入した。ビジネスである以上、一定の競争はあってしかるべきだが、収益が悪化し、撤退する事業者が出てきたら地域にとっても損失だ。燃料価格や物価の高騰も利益を圧迫する。各事業者が効率的に営業し、業界を盛り上げていくような連携を探りたい。
 6月下旬から移動販売車を運行しているJA遠州中央の担当者は「地域貢献で始めた事業だが、継続するには収益の改善は不可欠。競争が激化し、事業者が淘汰(とうた)されるような状況になっては本末転倒」と連携の必要性を強調する。
 行政や社協には、地域の潜在的なニーズを吸い上げ、事業者とマッチングすることも期待したい。例えば、高齢者が入居する福祉施設に出向けば一定の需要は見込めるし、利用者の楽しみにもなる。収益性の高い販売ルートが一つでも確保できれば、安定的な営業につながるだろう。
 移動販売車は買い物支援だけにとどまらない。週1回、移動販売車で買い物する同市豊浜中野の女性(81)は「商品は少し割高だけど、みんなで世間話する機会にもなり、楽しみの一つになっている」と話す。地域住民の交流促進や高齢者の見守りなど、副次的な機能も期待できる。
 全事業者が収益を高められる形を見つけるのは容易ではない。高齢化社会の課題解決につながるモデルとして全国に示せるよう、ビジネスと地域社会への貢献を両立できる体制を見いだしてほしい。

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