記者コラム「清流」 恩返し

 学生時代、静岡新聞社の就職内定を報告すると、母は既に私が入社を決めたと思い込んだ。実際は東京での就職と迷っていたが、喜ぶ姿に「これが親孝行か」と帰省を決意した。懐かしい思い出だ。
 あれから20年、その母が亡くなった。同じ市内に住み、実家とは交流したつもりだが、直後は「もっとやれたことがあったのでは」との思いばかりだった。
 母の愛情に見合う親孝行ができなかった自責だと思う。今、私自身が家庭を持ち、親の愛は見返りを求めないものと知ったのに、申し訳なさがあとからあとから湧いた。
 亡くなる数日前、病室でくれた「ありがとう」の言葉が救いになっている。恩返しは子どもや社会にしていこう。「それでいいよ」という声が聞こえる気がする。
 (社会部・河村英之)

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