住民の「誇り」醸成 伊豆の魅力 地域が認識を【記者コラム湧水】

 「『何でこんなとこに引っ越してきたの』と冗談交じりに言われました。でも半分は本気のような気がして。これでは子どもたちが地元に自信を持てない」。伊豆市で11月上旬に移住者の増加をメインテーマに開かれた会議で出た男性移住者の意見に強く同意した。人口減少や少子高齢化が長く叫ばれている伊豆地域。地元住民が魅力を認識し、誇りを持たなければ衰退の一途をたどるだろう。
 3年前の春、この地域に赴任してきた際にあいさつ回りをしていると、男性と同じような場面に何度も出くわした。「何にもないところでね」「子どもを全然見なくなっちゃったよ」。今でも再三聞く話だが、自然、産業、歴史とさまざまな面で伊豆には魅力があると実感している。
 男性が最も懸念していたのが、大人のネガティブな姿勢が世代を超えて子どもにも伝わってしまうこと。「魅力がない」と後ろ向きな大人の姿を身近で見ていれば、子どもがそういう地域なんだと思い込んでしまうのも無理はない。
 「地元の魅力は何だろう」と感じている人は、一度移住者と話す機会を設けてはどうだろうか。移住者は地域に何かしらの魅力を感じて決断した人ばかりで、世代や価値観もさまざま。伊豆市内の移住相談センターの担当者によると、新型コロナ禍で地方暮らしに関心が集まり、相談件数は増加傾向にあるという。地域との深いつながりを求めて移住する人もいるといい、地元住民と移住者が接点を持つことで、まちづくりに好影響を与える機会が増えそうだ。
 子どもたちが地元の魅力を紹介する地域情報誌の制作活動が10年前に伊豆市で始まり、現在は隣の伊豆の国市をはじめ、県内外に広まっている。制作に参加した子どもたちに感想を聞くと、「進学や就職で一度は市外に出るかもしれないがまた地元に戻りたい」と充実した様子で話してくれる。子どもたちが戻りたいといつまでも思ってくれるように、地域に対する誇りを持ち、魅力を磨き続けることが大人の使命だ。

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