今切口導流堤の釣り禁止 安全な環境整備、探る議論を【風紋】

 浜松、湖西市境の浜名湖今切口の導流堤で釣り人の転落事故が相次いでいるとして、県が立ち入り禁止区域を設定し、12月から釣り人に退去を求めるパトロールを始めた。来訪者の把握や管理ができず、事故時の対応に困難を来している背景がある。一方、釣り人の間では禁止以外の事故防止策の検討を願う声が根強い。
 今切口導流堤は県管理の港湾施設。県は2007年、転落死亡事故を機に立ち入り禁止の看板を立てたものの、魚が豊富なため釣り人は減らなかった。しかし、20年と21年にも死亡事故が起きたため、県と警察、漁協などでつくる協議会が今秋、禁止区域を明確にして本格的に規制に乗り出した。釣りは湖の内側にある公営の海釣り公園で楽しむよう呼びかけている。
 導流堤上の釣りは、天候が穏やかな日中は危険性が低そうに見える。だが、荒天時の今切口は船舶事故が多発するほど波や潮流が強まり、転落者がいると警察や消防などが命がけの救助活動を強いられる。「釣り人がいなくなった」との通報を受けて捜索したが、実際には別の場所にいたという事例も多いという。漁船に向けてルアーが投げられるトラブルもある。これらは入退場の適切な管理がなされた施設では起こらない問題だろう。
 例えば、県管理の熱海港にある海釣り施設は、かつて釣り人の死亡事故を機に封鎖された防波堤を官民の連携で管理し、安全性を高めた事例として知られる。地元のNPO法人が運営に関わり、マナー講習、荒天時の閉鎖が徹底され、利用者を含めて危険行為の根絶を図る仕組みがある。
 県担当者は今切口導流堤の熱海港のような活用法を「一つの可能性」と話す。しかし、導流堤は海岸と地続きでどこからでも出入りできるため、熱海港と比べて物理的な封鎖や出入り口の設定が難しく「管理者として容認できる環境がそろわない」と説明する。
 釣り人の危険行為が問題視されて規制が強まるのは、今切口に限らず全国的な傾向だ。ただマナーを訴えるのみでは解決につながりにくい。それでも、一部の危険行為を捉えて穏やかな日中の釣りまで一切禁止、との方針は極端な印象がぬぐえない。管理者と釣り人の協力で適切な統制を目指す、議論の場が必要ではないか。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞