へき地・小規模校の教育活動 “他者”との関わり創出 市街地校と交流/異学年の縦割り

 少子化を背景に、学級数が適正規模に達しない公立小中学校は全国の半数を超える。特に中山間地やへき地での学校は児童数の減少が顕著で、児童生徒は特定の顔触れで過ごすため意思疎通しやすい半面、多様な意見に触れたり、語彙(ごい)を増やしたりする機会の創出が課題になっている。人数の少なさを意識的に補い、対話のきっかけを創出する学校の取り組みを取材した。

冬休み前の授業。児童は思いのままに質問や意見を述べていた=昨年12月中旬、静岡市葵区の大河内小中
冬休み前の授業。児童は思いのままに質問や意見を述べていた=昨年12月中旬、静岡市葵区の大河内小中
小規模校やへき地校の教育の長所や課題を解説する山下由修シヅクリ代表
小規模校やへき地校の教育の長所や課題を解説する山下由修シヅクリ代表
冬休み前の授業。児童は思いのままに質問や意見を述べていた=昨年12月中旬、静岡市葵区の大河内小中
小規模校やへき地校の教育の長所や課題を解説する山下由修シヅクリ代表


 JR静岡駅から24キロ北上した中山間地にある大河内小中学校(静岡市葵区)は2020年度から、「教員の関わり」「ICT機器の活用」「地域連携による体験の創出」を3本柱に掲げる。児童生徒数は20人で、1学年当たり数人ほど。話し合いで思考が偏った際などには教員が“○人目のクラスメート”になって意見を投げかけるなどして視野を広げるよう試みている。
 同校では市街地の小学校とのオンライン授業に積極的に取り組む。意見交換で視野を広げたり、伝え方を試行錯誤したりするなど児童生徒に変化がみられたという。沢本由美校長は「高校に進学すれば環境は激変する。臆せず自分の考えを語れるよう、小中学校の段階から互いの違いを認める受容力を高めておく必要がある」とする。また「地域連携のやりやすさは、ここならではの魅力。子どもの自己肯定感を高める面からも良い影響を与えている」とも語る。
 同市葵区の藁科中(生徒数42人)は、異学年の縦割り班制度を導入した。1~3年まで10人の班を四つ設け、地域の魅力や課題、解決策を探る総合学習の「わらしな学」のほか体育祭の対抗戦など、日々の行事で採り入れる。生徒へのアンケートでは「縦割り班に積極的に参加していますか」との問いに9割以上が「はい」と答えた。2年の男子生徒は「生徒会長選への立候補を迷った時、縦割り班の先輩がずっと応援の言葉を掛けくれたことがうれしかった」と振り返る。
 同市清水区の清水三保第二小(児童数82人)は小規模校の特徴ともいえる主体性の高さをさらに伸ばすよう児童が企画から手がける特別活動を実施する。児童発案の「全校七夕祭り」では休み時間を活用して6年生が下級生を招待し、敷地内にある松林の松ぼっくりやペットボトルのふたを“コイン”に見立てて、縁日の遊び場を提供した。また同校でも縦割り班を設け、毎年顔触れを変更している。学年当たり1クラスでクラス替えができないため、縦割り班で接する友だちとの接点を増やす狙いだ。
 3校の取り組みは同市葵区で11月中旬、東海北陸地区の小規模校など約150校から校長や教員が集まった「へき地・複式・小規模学校教育研究大会静岡大会」で授業公開された。静岡県内の該当校は小学校24校、中学校は小中一貫校を含めて16校。
 法令では、公立小中学校の標準規模は「12~18学級」。小学校なら1学年当たり2~3クラス、中学校は4~6クラスとされる。文部科学省の2021年度の調査では、「標準規模」に届かない「11学級以下」は小学校で50・8%、中学校で61・4%に上る。
 へき地や小規模校での教育活動に詳しい北海道教育大の玉井康之副学長は「小規模校は児童生徒と教員間の信頼関係をベースに、真の意味で一人一人と向き合う教育活動ができるのが強み。積み上げられたスキルは大規模校でも生かされる」と魅力を話す。

シヅクリ代表 山下由修氏 「主体性」育みやすく  小規模校やへき地校の教育活動の長所や課題、少子化における学校の在り方は―。東海北陸地区へき地・複式・小規模学校教育研究大会で記念講演した元校長で一般社団法人「シヅクリ」の山下由修代表に聞いた。
 ―教育活動のメリットやデメリットは。
 「教員は一人一人の学習状況、内容の定着度を的確に把握し、個に応じた細やかな指導をすることができる。他学年との交流や、教育資源の得やすさも特有の魅力。目が行き届くため、校外学習も機動的に取り組むことができる。デメリットはやはり、少人数ゆえ集団活動の機会が乏しいこと。意見が限られるため展開する上で制約が想定される。社会性やコミュニケーション能力、協働的な学びの確保も課題だろう。現場では意識して取り組んでいるはず」
 ―少子化を受けた統廃合の流れをどうみるか。
 「研究大会の講演では『2040年にへき地、複式、小規模学校は存在しているか』という問題提起をし、意見を募った。聴講者はへき地や小規模校の教員で、自校の教育的価値を体感しつつも、統廃合の流れは避けられない、との見方が主流だった。確かに平成年間で小中学生数は半減し、小学校数だと2割、中学校数は1割が減少し、全国的な統廃合の流れは必然と言える。国の調査では多くの自治体が、地域との合意形成の難しさを指摘する。学校のない地域コミュニティーの創造も社会課題として提起されるだろう」
 ―少人数での活動が成果を挙げた事例はあるか。
 「静岡市内の小学校で児童4人が地域で花火大会を計画し、企業にプレゼンして開催した。新型コロナウイルスの感染拡大で協賛企業が辞退するなど壁は高かったが諦めなかった。一緒にやろうという思いの輪を数人から地域に広げた好例だ。実はこれは市街地の学校での活動。規模にかかわらず少人数の活動はあり、実現させることもできる。小規模校の教育の魅力はどの学校にも通じている」
 ―講演では「未来につながる学校」を小規模校の新たな役割に掲げていた。
 「教員が個々の成長に応じることができ、地域資源との接点も多い。子どもも地域と自分を結び付けて関心を持っているから“小さな社会”の課題を自ら見つけ、周囲との信頼関係の中でアプローチの道筋を描きやすい。何をするか決めるのは子どもで、教員は伴走者。日本の教育の柱になっていく実践がすでに行われている点で注目していきたい」

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