紙と光 慰霊の空間演出 美術家・森妙子さん(静岡市葵区)

「Requiem―鎮魂歌―」 3月6日までグランシップ(静岡市駿河区)

「海外での活動は社会勉強。世界情勢を知ることにつながる」と語る森妙子さん=静岡市駿河区のグランシップ(写真部・小糸恵介)
「海外での活動は社会勉強。世界情勢を知ることにつながる」と語る森妙子さん=静岡市駿河区のグランシップ(写真部・小糸恵介)

 ショーウインドーの中の狭い空間。天井付近から床へとネットのようなものがつり下がる。表から差し込む日の光が、荒い網目模様を後方の壁に映し出す。「影がすごくきれいに出るでしょう」。美術家の森妙子さん(70)=静岡市葵区=が、「Light[ライト][・]and[アンド][・]Lines[ラインズ]」と題したインスタレーションを指し示す。素材はほとんどが紙だ。
 白い紙ひもを編んだネットはしなやかに形を変える。その所々に、薄い紙で作ったチョウ。「死者に恨みがあると白いチョウに転生する」。そんな朝鮮半島の言い伝えが基になっている。
 「ロシア、ウクライナ、ミャンマー-。今も大勢の人が死んでいる。御霊[みたま]を思いながら作った」。半紙を折って作った足元の小舟は、盆の精霊流しを想起させる。
 同市出身。東京での生活を経てフランスのパリ国立高等美術学校に学んだ。紙との出合いは25年ほど前、招聘[しょうへい]アーティストとして長期滞在した岐阜県美濃市。自らすいた和紙で作品を制作した。「軽くて運びやすい。海外で受け入れられる」。素材としての魅力にとりつかれた。美濃では世界のアーティストやキュレーターとのつながりもできた。海外での個展やグループ展など、活動の幅をさらに広げた。
 世界情勢や社会問題にアーティストとして向き合う姿勢を大事にする。その根底には、戦争などで不条理に失われた命に向ける鎮魂の思いがある。「美術家として、社会に対して敏感に反応していきたい」。その活動の場は今後も、国の内外を問わない。

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