ロシアのウクライナ侵攻 避難者の素顔に触れて【記者コラム黒潮】

 ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、県内に避難してきた女性を昨年取材した。戦闘が長期化するほど、避難者との接触は難しくなっていると感じる。本人や支援者とのやりとりで感じたことを紹介したい。
 避難者の交流会で出会った20代女性は日本語が堪能だった。来日前から相当勉強してきたのだろう。インタビューを打診すると「最初はNGにしていたけれど、そろそろ答えてもいいかなと思っている」と話した。
 厳しい言葉で懸念を示したのは、身元引受人の日本人男性だった。「母国に対して『自分だけが』という心労は計り知れない。今起きている国難について、根掘り葉掘り聞かれる気持ちを考えて」との訴えだった。「遠い国なのに不思議と日本人と倫理観が似ている人が多い。支援に恩義を感じ、無理をしてでも語ろうとしているのでは」とも。確かに過去の取材を振り返ると、ウクライナ人は義理堅い人が多い。
 女性は「無理をしない」との約束で取材を受けてくれた。「心配のしすぎです」と本人はユーモア交じりで、私が「(身元引受人は)優しい方だと思いました」と言うと「日本での親のようなものです」と笑った。
 女性は大変な親日家で、現地の大学を卒業後、就職して留学費用をためながら独学で日本語を身に付けた。自身を「オタク」と言い、私が知らない日本のアニメをいくつも紹介してくれた。
 新生活は新鮮な半面、家計との両立、和食の苦労や、「外国人」への目線が気になって帽子で金髪を隠していることも話した。戦争のことは言われなければ聞かないことにした。女性は最後まで触れなかった。
 国内の避難者は2200人。新生活に慣れてきた頃合いだが、突然泣き出してしまう人もいると聞く。国内で支援の輪が広がる中で、身元引受人の男性が言った通り「現在進行形」で戦争が続いていることを、私たちは意識して接する必要がある。女性の実家がある街の名を覚えた。彼女は、侵攻から1年となる2月24日をどんな思いで迎えるのだろう。

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