時論(1月21日)田辺静岡市政の「功罪」

 静岡市の田辺信宏市長が4月の市長選に出馬せず、3期目の任期満了をもって市長を退任する。12年の田辺市政を振り返ると、「功罪相半ばする」という表現がこれほどふさわしい人も珍しい。清水区の桜ケ丘病院の移転問題を巡る対応はその象徴だった。
 2021年3月までの4年半、田辺市政を取材した。その間の最大の政治課題が桜ケ丘病院の移転問題だった。同病院は元々、全国に散らばる社会保険病院の一つで、市立病院ではない。しかし、市は老朽化した同病院の移転に深く関与していた。
 この問題での「功」は同病院を存続させたことだろう。黙っていても医師が集まる都市部と違い、県内は医師不足が深刻。市が病院存続に向け、土地の提供や医師確保などに奔走したことは市民利益にかなっているとの見方もできる。移転先を巡り反対運動が起きた際、田辺市長が「歴史が判断する」と抗弁したのには一分の理があった。
 一方で、住民軽視ともいえる説明不足や手続きのまずさは「罪」と言える。住民投票請求にまで発展しながら反対派との膝詰めの議論は拒み続けた。病院の移転先は現清水庁舎の所在地(後に撤回)と唐突に発表し、その後、清水庁舎移転と病院移転は別の議論との説明も説得力を欠いた。
 当時、田辺市長が反対派との面会を決めながら、直後に撤回したことがあった。市は調整不足を理由としたが、有力市議から横やりが入ったとの情報もある。市民の代表である議員の意見に耳を傾けるのは市長として大事なことだが、その姿勢が強くなり過ぎると、市民の声が届かなくなる。今回の不出馬劇の要因の一つになったのではないかと思う。

 〈随時掲載します〉

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