男社会への挑戦 新型コロナ下、自伝まとめる 「女になれない職業」を出版した映画監督/浜野佐知氏【本音インタビュー】

 女性が映画制作に携わることが困難な時代に成人向け「ピンク映画」の監督として頭角を現し、一般映画でも女性の性の抑圧を撮り続けてきた異色の人。新著の自伝「女になれない職業」や仕事への思いを聞いた。

浜野佐知氏
浜野佐知氏


 -自伝をまとめたきっかけは。
 「古希を迎え、近年は常に『これで最後かも』と覚悟して映画に向き合ってきた。ところがコロナ禍でその映画制作が止まり、映画祭なども軒並み中止になった。映画の他にできることはないかと考え、これまでの自分を全て記録しておこうと思い立った」
 -自身のキャリアをどう振り返るか。
 「静岡の七間町で映画に夢中になるうち、女性の描かれ方に疑問を持ち、本物の女を表現したいと監督を志したのが50年以上前。当時は大卒男子でなければ映画会社の制作部門に入社すらできなかった。その時感じた怒りが原点。唯一潜り込むことができたピンク映画の現場で、男を超えるつもりで闘った」
 ―独立して一般映画にも進出した。
 「自分が撮りたいと思ったテーマを作品にするため、37歳で会社をつくった。ピンク映画ではいくら撮っても映画監督と認められない現実に奮起し、自社制作で一般映画も手がけるようになった。海外の女性映画祭などに呼ばれ、女性が抱える問題や映画界でぶつかる壁はどこでも同じと気付いたのは貴重な経験。男になろうとあがくより、女のまま、女の感じることを伝えていけばいいと思えるようになった」
 ―次回作の構想は。
 「大正時代の思想家金子文子の企画がある。日本で朝鮮独立運動の結社を率いた朴烈[パクヨル]の内縁の妻で、大逆罪で死刑判決を受けた人物だが、近年の韓国映画で情念の人として描かれているのに反発を覚えた。彼女の本当の姿を示したい。静岡ロケで制作した『雪子さんの足音』で描いた“老女の欲望”も今後のテーマだ」
 -映画界のジェンダー平等は進んだか。
 「映画がスマホでも撮れるようになり、業界に女性は増えたが、撮影が容易になった分、皮肉だが思いや覚悟が足りないと思えることも多い。男性優位の社会構造は変わらず、女性監督をある種の商品として扱うような状況も依然ある。女性が自立した自由な表現者になれるのはまだ先では」
 (聞き手=社会部・西條朋子)

 はまの・さち 徳島県生まれ、静岡市育ち。映画監督兼プロデューサーとして300本以上を制作。主な作品に「百合祭」「百合子、ダスヴィダーニヤ」など。74歳。

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