火災休業の老舗洋食店 移転再開 鍋や包丁…「戦友」と奮起 静岡

 昨年8月に起きた静岡市葵区呉服町のビル火災の影響で休業を余儀なくされた老舗洋食店「グリルくらもと」がこのほど、同市駿河区南町に移り約4カ月ぶりに再開した。名物だったオムライスなどの復活に、常連客から期待の声が聞かれた。

濃厚さが評判のオムライスを提供する倉本毅さん=1月初旬、静岡市駿河区
濃厚さが評判のオムライスを提供する倉本毅さん=1月初旬、静岡市駿河区

 「いらっしゃいませ」
 1月初旬。新店舗でオーナーシェフの倉本毅さん(66)の明るい声が響いた。メニューは再開前と同じものをそろえ、客を迎える。10年以上、店に通う駿河区の男性(68)は「卵の濃厚な味が際立つオムライスは絶品。楽しみにしていた」と声を弾ませた。
 35年にわたり店の歴史を紡いできた倉本さんにとって火災は大きな試練だった。店舗は火災が発生したビルの地下にあり、消火に伴う放水で調理器具からテーブル、いすに至るまで水浸しに。一夜にして変わり果てた姿に「しばらく何も手に付かなかった」。
 しかし、調理場から長年使い続けた鍋や包丁など“戦友”を拾い出した際、倉本さんの心に料理への情熱がよみがえったという。調理の腕が衰えたわけではない。自分の味を待つ人に向け再び歩き出し、オープンにこぎ着けた。
 妻英世さん(73)は「家では弱音を吐かなかったけど、つらかったと思う。生真面目さが主人の良さ。これから一層理解し、尽くしていきたい」と二人三脚を誓う。
 倉本さんは「支えてくれたお客さんに同じ味を届けたい。『変わってないね』と言われたら一安心」と目尻を下げた。

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