記者コラム「清流」 太田さんが突きつけた現実

 執念が呼び起こした奇跡か。県警が熱海市伊豆山の土石流災害で行方不明になっていた太田和子さん=当時(80)=の腕の骨を大量の土砂の中から見つけた。いてつく寒空の下でも、真夏の炎天下でも常に「可能性がある限り諦めない」と言い続けてきた関係者の熱意が実を結んだ。
 1年7カ月ほど前、こんなことがあった。不明者がなかなか見つからない日が続き、ある男性が「捜索は一体どうなっているんだ」と怒り交じりに私にこぼしてきた。過酷で危険な現場の状況を伝えると、男性は力が抜けた声でこう語った。「分かってはいるけど、やりきれないんだよ。なんでこんなことに…」
 太田さんの骨が発見されたことは良かったと思う半面、28人の命が奪われた現実の重さを改めて突きつけられた。

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