時論(2月19日)領土問題、彼方の話ではない

 北方四島も、竹島も、尖閣諸島も、日本地図では静岡県から遠く離れた所にある。しかし、周辺国を含む広い地図にすると、見え方が違ってくる。領土問題は彼方[かなた]の話ではない。
 都内で2月7日に開かれた「北方領土返還要求全国大会」で、岸田文雄首相は「日ロ関係は厳しい状況にあるが、領土問題を解決し、平和条約を締結する方針を堅持している」と述べた。
 領土問題の解決とは、四島返還でなければならない。一部でも譲渡して解決とするのは認められない。大会のライブ配信やアニメーション「エトピリカ」を視聴して元島民が語り継ぐ旧ソ連侵攻時の恐怖や望郷の言葉に触れ、改めてこう思った人は多かろう。
 ところが現実は「2島返還」で話が進んでいた。「(平和条約が締結された後に)歯舞群島と色丹島を日本に引き渡す」とした日ソ共同宣言(1956年)。安倍晋三元首相とロシアのプーチン大統領は2018年11月のシンガポール会談で、この宣言を基礎に平和条約交渉を加速することで合意した。
 しかし20年のロシア憲法改正は領土の割譲禁止を明記。さらに昨年2月のウクライナ侵攻で、交渉はおろか、元島民の「北方墓参」も中断された。
 安倍氏の自信や熱意が裏目に出て、結果は勇み足ということだろう。だが動いた分、教訓は得られた。その意味でも、3年ぶりの対面開催で、不法占拠に抗議した今大会は意義があった。
 国境を定めた日露通好条約は幕末の下田で結ばれた。1998年の日ロ首脳会談は伊東市川奈で行われ、日本側は国境線画定などを提案した。
 2月22日は島根県が条例で定めた「竹島の日」。領土問題には歴史や経緯を正しく知り、毅然[きぜん]と臨みたい。

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