生徒同士でトラブル解決「ピア・サポート」 浜松の学校が導入 傾聴、仲介能力習得に一役

 生徒同士が学校生活の悩みや課題解決に向けて助け合い、円滑な人間関係の構築を目指す「ピア・サポート」の授業が、浜松市内の小中学校などで進められている。身近なトラブルや問題とどのように向き合い、どう取り組んだらいいのか。何が可能なのか。市立蜆塚中の試みを追った。

友人同士のけんかを仲裁するロールプレーイングに取り組む生徒=浜松市中区の市立蜆塚中学(写真の一部を加工しています)
友人同士のけんかを仲裁するロールプレーイングに取り組む生徒=浜松市中区の市立蜆塚中学(写真の一部を加工しています)

 1月中旬、同市中区の蜆塚中でピア・サポート講座が開かれた。1~3年12人が3人ずつの班に分かれ、「けんかをしてしまった生徒の仲介」を題材に、ロールプレーイング型の訓練に臨んだ。「友人グループで遊ぶ予定が雨で中止となったが、1人だけ中止連絡が回らなかった」という設定。生徒は連絡担当者のAさん、連絡が来なかったために憤るBさん、仲介役のメディエーターに分かれた。
 メディエーターは「仲介することの合意を取る」「意見を平等に聞く」などのルールに沿って話し合いを進めた。最初は互いの意見だけを主張していた生徒が、メディエーターが一人ずつに話しかけることで少しずつ冷静になり、「他の友達もいるのにAだけを責めてしまった」「次からは1人ずつ、きちんと連絡する」などと反省の言葉を口にした。
 講座は年間10回のプログラムで解決策の一端として傾聴、仲介などのスキル習得を目指す。桐村真依さん(3年)は「初対面の人と話すのが苦手。上手にコミュニケーションを取りたいと思った」と参加動機を説明し、「目を見て話すといった基本的な知識が身についた」と語る。高柳春香さん(同)は「講座を受けてから、話の聞き方がうまくなったと友人に言われた」と手応えを感じている。
 同校は昨年5月からピア・サポートの講座を導入した。今井真衣養護教諭(41)は「生徒間で、小さな言い合いやトラブルが増えている傾向が見られる。ピア・サポートを知って、効果があるのではないかと思った」ときっかけを話す。その上で「難しい学びではなく、基本的なことを伝えることが大切。講座に参加した生徒をモデルに、校内に広まってほしい」と期待する。
 ピア・サポートは1970年代、移民の多いカナダや米国など欧米諸国で、いじめ防止対策を目的に普及が始まったとされる。子どもが、悩みやトラブルを大人ではなく友人に相談するケースが多い実情を踏まえ、子ども同士で問題解決ができるようにトレーニングを進めるのが特徴だ。
 浜松市では2012年ごろから、浜松江之島高(同市南区)を中心に導入が始まった。ピア・サポートの指導、普及に当たる市教育総合支援センターの山口権治心理専門相談員(66)は「いじめや不登校を自分ごととして考え、生徒一人一人がトラブルを解決する力を少しでも身につけてほしい」と強調する。

違い認め価値観尊重を 北陸学院大人間総合学部・松下健准教授

 子どもたちが円滑な人間関係を築く力を身に付けるには、どのような指導が求められるのか。友人同士で支え合って問題解決の糸口を探る「ピア・サポート」の活動に詳しい北陸学院大人間総合学部の松下健准教授に聞いた。
photo02 子どもたちの円滑な人間関係構築の支援について語る松下健北陸学院大准教授
 -国内の小中学校、高校のいじめ対策の現状と課題は。
 「いじめ問題には劇的な効果を持つ改善策がないため、行政もなかなか対策を実施できていない。スクールカウンセラーやソーシャルワーカーを設置するなど児童生徒の支援体制を作る工夫は見られるが、現場の教員に判断が委ねられている部分が大きい。一つ一つの事例を学校側が詳しく検討し、把握することが大切だ。いじめの認知件数は小学校で多い一方、中学や高校では不登校の生徒が増える。対人関係の問題が小学校とは別の形で表面化している」
 -子どもが円滑な人間関係を作るために必要なスキルとは。
 「ピア・サポートでは助け合いを重視している。合意を得られずに問題が解決できなかった場合も、違いを認め合って相手の価値観や考え方を尊重しなければ、人間関係の構築はいい方向に向かわない。一人一人が意見の伝え方、話の聞き方、仲介の仕方を学ぶことで、学校内の環境改善につながると考える」
 -ピア・サポートは教育現場にどのような効果を及ぼすのか。
 「子どもは困った時に、友達に相談する傾向が強い。子ども同士で問題やもめ事の解決ができるようにすることで、早急に課題にアプローチするとともに、人間関係をつくっていくためのスキルアップができる。さらに、子どもの関係が良好になることで勉強を教え合うなど、学力の向上も期待できる。もちろん、子どもだけで解決できない問題には教職員をはじめ、大人の助けが必要になる」
 -具体的な取り組み事例は。
 「日本では教職員が受け持ちのクラスや委員会に呼びかけて、草の根的に実践しているケースが多いが、海外では休み時間に係の生徒が校内を見回り、もめ事が起きたら収めに行く事例もある。全校児童、生徒を対象にした必修の学びになることが理想だが、子どもが『やらされている』と感じる可能性もあるので、その点は慎重な姿勢が不可欠だ」

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