時論(3月5日)急速に一般化した樹木葬

 樹木を墓標とする自然志向の樹木葬が登場して三十余年。今や新規購入は、石材による一般墓より樹木葬を選ぶ人が多いと知り驚いた。少子化が進み、ジェンダー平等が浸透して「家」「家族」が変容する中、継承を前提としない墓に目が向くのは当然かと思われる。
 検索サイト「いいお墓」が毎年行っている「お墓の消費者全国実態調査」によると、2010年には新規購入者の約90%が一般墓を選んだが、19年には一般墓27%、樹木葬41%と逆転。20、21年も樹木葬が一般墓を上回った。
 当初の樹木葬は墓地認定を受けた雑木林に埋めたお骨のそばにそれぞれ植樹し、里山再生を進めた。エンディングノートの書き方講座など現代社会の葬送の形を問い続けてきたNPO法人エンディングセンター(東京、井上治代理事長)の「桜葬」が先駆けとなって、樹木葬は都市部にも普及した。一般墓が戸建てなら、集合住宅に例えられる。桜の木の下に皆で眠り、新たな縁を結ぶという理念を掲げている。
 静岡市内の霊苑の「桜花葬」は、こぢんまりとした苑内にしだれ桜が植えられ、その回りのコの字の壁に前面がB5判ほど、奥行き約70センチの480区画が“6階建て”に並ぶ。お骨は一定期間安置後、桜の下に合祀[ごうし]される。
 各区画前面の石板には名前や碑文が彫られている。人柄や趣味をしのばせるデザインもある。誰と入るも自由。宗教、宗派を問わない開放感がある。
 昨年の民法一部改正で、女性にだけ適用された再婚禁止期間がなくなるなどした。明治民法から引き継がれ、時代にそぐわなくなった規定は少なくない。家族や結婚のありようは時代とともに多様化する。樹木葬の急速な一般化は、その断面の一つといえよう。

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