県境ボーリングに「ジレンマ」 田代ダム案実現遠のく? 静岡県側「今行う必要ない」

 リニア中央新幹線トンネル工事の影響を検討する県有識者会議は、急きょ20日に専門部会を開き、JR東海が2月下旬に踏み切った山梨県から静岡県境に向けての高速長尺先進ボーリングの削孔(さっこう)への対応を協議する。大井川の水資源の保全を巡っては、源流部にある田代ダム(静岡市葵区)の取水抑制案が有効な方策として浮上しているさなか。専門部会長の森下祐一静岡大客員教授は「JRは自らダム案実現のハードルを上げている」と、ダム案の後退を招きかねない同社のボーリング計画に疑問符を付ける。

田代ダム取水抑制案のイメージ図
田代ダム取水抑制案のイメージ図
静岡県境に向けた高速長尺先進ボーリングを巡る県とJR東海のやりとり
静岡県境に向けた高速長尺先進ボーリングを巡る県とJR東海のやりとり
田代ダム取水抑制案のイメージ図
静岡県境に向けた高速長尺先進ボーリングを巡る県とJR東海のやりとり

 JRが提示した田代ダムの活用案は先進坑掘削時のトンネル湧水県外流出対策が本来の目的だが、JRはボーリングが県内に入ってから出る湧水の返水についても同案で賄う考えを示す。実現するには、ダムを管理する東京電力リニューアブルパワー(東電RP、東京)の協力が必要だが、東電RPは15日現在、対応を明らかにしていない。県は山梨県側の県境削孔時も湧水を返水することを求めていて、JRはボーリングを進めれば進めるほど田代ダム案に課される要求が高まるというジレンマに陥っている。
 JRはボーリングを行う理由について「県境付近の断層帯のデータを取ることが流域住民の不安解消に資する」と説明する。対して森下部会長はボーリングに伴う湧水が調査後も長期間流出し続けることへの懸念を示し、「逆に住民の不安が高まるだけだ。静岡県内の工事に着手してからでも、データを取るのは十分間に合う」と指摘する。田代ダム案の議論はヤマ場を迎えつつあり、あえて今、ボーリングを行う必要性を見いだせないと強調する。
 専門部会で県とJRの議論がかみ合わないのは、ボーリングが県内の地下水に与える影響への認識がそもそも異なることが根底にある。JRは部会提出資料で「県境付近を削孔しても影響を与える可能性は小さい」と記した。一方、県は、JRの見解は同社の過去の説明と整合性がとれていないとする。JRが以前提示した計算式を基にボーリングの湧水量を計算すると、先進坑湧水量の63%に上ることや、過去の国土交通省専門家会議でJR自らが、地質状況が想定と異なった場合に先進坑掘削に伴う県外流出量が増加し、大井川中下流域の流量が減少するリスクを説明していたことを指摘する。

改良工事で取水停止 ダム案成り立たず? 24年2月~25年11月
 田代ダムを管理する東京電力リニューアブルパワーは2022年11月の大井川水利流量調整協議会で、24年2月から25年11月までの1年9カ月間、発電施設の大規模な改良工事を行うため、ダムの取水を停止する計画を示した。
 取水をしなければ「取水抑制」もできず、田代ダム取水抑制案は成り立たないことになるため、県がJR東海に見解を求めている。
 田代ダム取水抑制案 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事で山梨県側から静岡県境を越えて掘削する先進坑が、静岡県側から掘削する先進坑とつながるまでの間、トンネル湧水が山梨県側に流出する問題に対し、JR東海が解決する方策の一つとして2022年4月の県有識者会議の専門部会で提示した。大井川から取水し、山梨県の富士川水系に水を落としている田代ダムで、流出量と同量の取水を同時期に抑制する。県や大井川流域市町が求めている「トンネル湧水の全量戻し」の代替案になり得るとして実現性を検討する議論が続いている。

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