60年放置の都市公園用地 新球場、沿岸の集客賛否【伝えたい 政令市の現場から④完 浜松市㊦】

 高さ13メートルの防潮堤で遠州灘と隔てられた沿岸域の砂地に、タマネギ畑が広がる浜松市西区篠原地区。ポツンと目立つ市総合水泳場「トビオ」の周囲は空き地と休耕田が無機質な風景を形成する。「県が公園化するはずが、60年もこの状態。にぎわいを期待した住民も年を取ってしまった」。地権者約300人を束ねる篠原地区地域活性化促進協議会の鈴木達範会長(76)はいらだちを隠さない。

市総合水泳場のテラスから公園化予定地を見渡す鈴木達範会長。地権者は早期着工を待ち望む=3月下旬、浜松市西区篠原町
市総合水泳場のテラスから公園化予定地を見渡す鈴木達範会長。地権者は早期着工を待ち望む=3月下旬、浜松市西区篠原町

 一帯37ヘクタールは1962年に遠州灘海浜公園篠原地区として都市計画で都市公園に指定され、民有地ながら開発が厳しく制限されてきた。2009年の水泳場開設を機に、市がこれまで約3分の1を買収してきたが、残りは手つかずのまま。
 川勝平太知事が14年度に野球場を中心とした公園化の方針を示した際は、期待に色めき立った。だが、津波浸水予想区域に位置することから、市議会や県議会で異論が噴出。市議会は18年度までに特別委員会で方針への賛成を決めたものの、県議会で議論が進まず、球場の規模や形状を定める基本計画の策定時期はまだ見通せない。
 22年に鈴木康友市長や経済界、市議会などが期成同盟会を組み、大規模イベント開催可能で集客力のある2万2千人収容のドーム型球場を県に要望した。促進協の鈴木会長は「にぎわいを生む施設なら一番ありがたい。同盟会が動きの遅い県議会の背中を押してほしい」と願う。
 一方、市内では県営野球場建設の是非や規模を巡り、慎重な検討を求める動きもある。県の概算によると、2万2千人規模のドーム型採用の場合、事業費はメイン球場が370億円、公園全体では最大510億円に上る。この事業費や使用料金の高額化などを懸念して、昨秋以降、三つのグループが県や県議会に比較的小規模な球場を求めて要望した。加えて、県は津波対策の防災設備を備えた球場を構想するが、大勢の観客がいる場合の対応に不安の声が根強い。
 市議会特別委の議論を当初から傍聴してきた南区のまちづくり研究グループ代表内田宏康さん(78)は、昨秋に特別委が非公開の会合で市議会の期成同盟会加盟を決めていたことを後に知り、不満を募らせた。
 内田さんは「市議会には規模についても多様な意見があったはずなのに、いつの間にか市長と一緒に大型のドームを求めている」と首をかしげる。その上で「近年の市政は期成同盟を組んで強引に世論を形成する傾向がある。一度立ち止まり、この手法も問い直すべきだ」と訴える。

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