静岡の増井さん石碑の拓本続け40年 静岡県内の200基分、県立図書館に寄贈 

 静岡市駿河区の増井春男さん(85)が29日、静岡県内の石碑の拓本を主題にした冊子を、同区の県立中央図書館に寄贈した。40年前から、碑文集の正確性に疑問を抱いたことをきっかけに千基近くを採拓し、それぞれ冊子にまとめている。地道な活動が関係者の目に留まり、約200基分を贈ることになった。

石碑ごとにまとめた冊子
石碑ごとにまとめた冊子
拓本を見ながら、石碑に刻まれた文字の美しさを語る増井春男さん=静岡市駿河区
拓本を見ながら、石碑に刻まれた文字の美しさを語る増井春男さん=静岡市駿河区
石碑ごとにまとめた冊子
拓本を見ながら、石碑に刻まれた文字の美しさを語る増井春男さん=静岡市駿河区

 増井さんは趣味で郷土史研究を進める中、碑文集に写し間違いや誤字が多いことに気づいた。「歴史や地域の発展に貢献した人の名前が刻まれているのに、あまりにお粗末」と1983年、同区にある十返舎一九の碑を皮切りに拓本を始めた。
 各地に赴くと、石碑が地域でどのように扱われているかも分かった。倒して橋として使われていたり、道路整備などのために撤去されたり。「どんな文字で何が書いてあったのか残さねば」と思いを強くした。
 作業は所有者の許可を得た上で、石碑を掃除することから始まる。湿らせた紙を石碑に密着させ、紙の上から墨をすりつけて写し取る。碑文集の多くはページの大きさに合わせて縮小された文字が掲載されているが、「それでは石碑が醸す雰囲気や文字の美しさ、職人の彫刻技術が伝わらない」。文字を原寸大で掲載することを意識し、拓本のコピーを切り貼りしながら石碑ごとにA4判1冊にまとめる。全体写真や大きさ、読み下し文も添えている。
 2021年9月、袋井市内の石碑の拓本を採った際、当時同市文化財保護審議会の会長だった五島康司さん(72)=同市=と出会い、図書館への寄贈につながった。五島さんは「拓本技術と編集方法はまさに神業。石碑の文化財的価値を評価する上での貴重な学術的資料で、碑文研究に大きく貢献するだろう」と見通す。
 増井さんは引き続き冊子の制作に取り組み、追加で寄贈していく予定。「石碑に刻まれた地域の歴史、石碑を建てた人々の思いを知ってほしい」と話す。

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