認知症高齢者の便秘改善 排便習慣確立、促進姿勢で効果 聖隷クリストファー大准教授 世界初の実証試験

 聖隷クリストファー大看護学部の内藤智義准教授(41)=老年看護学=が、認知症高齢者の慢性便秘の改善法を実証した。排便習慣を確立させ、排便姿勢を促すことで、24時間以内の投薬を行わなくても、残便感なく便を出させる効果があることを世界で初めて確かめた。成果は3月、米国消化器病学会誌で公表された。認知症高齢者のケアに関心が高まる中、患者や介護者の負担軽減につながることが期待される。

考案した排便改善手法のマニュアルを手にする内藤智義准教授。認知症高齢者や介護者の負担軽減へ研究を進める=4月上旬、浜松市北区の聖隷クリストファー大
考案した排便改善手法のマニュアルを手にする内藤智義准教授。認知症高齢者や介護者の負担軽減へ研究を進める=4月上旬、浜松市北区の聖隷クリストファー大
排便に関する習慣の確立と姿勢促進が認知症高齢者の慢性便秘に効果があったかどうかの比較
排便に関する習慣の確立と姿勢促進が認知症高齢者の慢性便秘に効果があったかどうかの比較
考案した排便改善手法のマニュアルを手にする内藤智義准教授。認知症高齢者や介護者の負担軽減へ研究を進める=4月上旬、浜松市北区の聖隷クリストファー大
排便に関する習慣の確立と姿勢促進が認知症高齢者の慢性便秘に効果があったかどうかの比較

 内藤准教授は浜松医科大で助教を務めていた2020年7月から21年2月、市内の介護施設6カ所の協力を受けて実証試験を行った。手法は、自然排便に関する国内外の先行研究を基に構築を進めたという。
 排便習慣の確立では、便を出すための「胃結腸反射」が起こりやすい朝食後にトイレへ促し、排便姿勢についてはロダンの「考える人」像のような前かがみで便器に座らせるようにした。この姿勢は認知症高齢者の場合、背中側にもたれて座ってしまうことが多いため、介護の職員らが促さないと難しいことも改めて分かった。
 実証試験の対象は簡単な質問に対する受け答えができ、慢性便秘を患う80代の認知症患者30人。排便促進手法を施す「介入群」の14人と、水を飲ませるなど通常のケアにとどめた「対照群」の16人に分け、2週間にわたって経過を観察した。1週間当たりの平均排便回数のポイントが対照群は低下したのに対し、介入群は1ポイント以上の増加が見られた。
 このほか、介入群は患者への聞き取り調査で「トイレが気になる」などの心配やストレスといった生活の質が改善され、介護者の負担感も軽減したという。
 一方、内藤准教授が考案した手法でケアした患者でも、実証後に服薬治療をやめるには至らなかった。服薬は不快感や腹痛といった負の側面もある。内藤准教授は「医師や管理栄養士らに協力を要請し、薬に頼らない介護プログラムの開発へつなげたい」と語る。

■慢性便秘は介護の負担に
 認知症高齢者の慢性便秘改善は、介護の現場でも重要なテーマだ。内藤准教授によると、介護施設に入所する高齢者の5~8割が便秘を患っているとの研究データが国内外で報告されている。
 便秘を患うと、認知症高齢者は暴言や徘徊(はいかい)といった行動が激しくなり、興奮や不眠などの症状も見られるようになる。便に触った手で壁やベッドを触る「弄便(ろうべん)」や、かん腸を施した後の精神的ケアなども、介護者や施設職員にとって大きな負担という。

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