酪農家の悲鳴届くか 富士宮市長・市議選16日告示

 静岡県内随一の規模を誇る富士宮市の酪農業が窮地に立たされている。新型コロナウイルス禍に始まった飼料価格の高騰は、円安や不安定な海外情勢のあおりを受けて拍車がかかる。任期満了に伴う市長選と市議選が16日に告示される。「もう限界」と悲鳴を上げる酪農家たちが市政の担い手に求めることを探った。

富士山麓の牧草地で過ごす乳牛。牧場の経営悪化に歯止めがかからず、牧歌風景の存続が危ぶまれる=富士宮市根原
富士山麓の牧草地で過ごす乳牛。牧場の経営悪化に歯止めがかからず、牧歌風景の存続が危ぶまれる=富士宮市根原

続く飼料高騰 補助金、消費拡大「先導を」
 市内で最も多い乳牛約450頭を飼育する朝霧メイプルファームは、飼養費が月平均で2年前より約1500万円膨れた。数年前からおからなど食品製造の副産物を取り入れ、丸山純社長は餌の最適化とコスト削減に知恵を絞ってきた。輸入飼料の高騰は瞬く間に企業努力を飲み込んだ。安価な飼料に切り替え支出を抑える手法もあるが、丸山社長は「餌を替えて乳量が減ってしまえば余計に赤字」という。自社での牧草生産量の向上に取り組む。
 市は昨年度、独自に粗飼料高騰対策で乳牛1頭につき2800円の補助金を実施した。酪農家の赤字は1頭あたり10万円ともされ、効果は限定的だ。土井ファームの土井一彦社長は「少しでも受け取れるだけありがたい。機材購入費など別の形でも支援を受けられないか」と腕を組む。
 富士山麓ののどかな牧歌風景と高品質な乳製品は富士宮の主要な観光資源でもある。土井ファームが経営するジェラート店は多くの行楽客でにぎわいはじめ、観光需要回復の兆しが見える。しかし、同店はコロナ禍と牧場の赤字で営業日を週に2日減らし、3年間で従業員も少なくなった。店を任される土井智子さんは「せっかく来てくれたお客さんに暗い牧場は見せられない」と笑顔を作り「牛乳を飲みたいと思える企画ができないものか」と、行政に先導を求める。
 市内の学校給食に牛乳を提供する富士の国乳業の佐々木剛代表は少子化に危機感を募らせる。市内の出生数は10年前の6割近くまで落ち込む。消費者が減れば牧場の規模縮小は免れない。再建に多大なコストがかかる業界だけに、酪農家は「生産あってこそ観光が成り立つ」と声をそろえる。

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