「子育ての町」 岡山・奈義町 実践20年、ようやく成果 静岡県への方策は

 政府が「次元の異なる少子化対策」に向けた議論を本格化させる中、統一地方選が終わり、静岡県内でも政策の担い手が新たになった。26日には国の総人口が50年後に3割減るとする推計も公表され、深刻さを一層浮き彫りにした。子どもを望む人の思いをかなえる社会づくりとは-。合計特殊出生率の高さで注目される岡山県奈義町の事例から方策を探る。

家庭保育世帯の交流の場「たけの子」。先輩ママが常駐し、相談にも乗ってくれる=4月中旬、岡山県奈義町(写真の一部を加工しています)
家庭保育世帯の交流の場「たけの子」。先輩ママが常駐し、相談にも乗ってくれる=4月中旬、岡山県奈義町(写真の一部を加工しています)


協力し保育/小中教材費無料化/高校生に年24万円
 「安心感が大きい」
 奈義町の子育て支援施設で、5歳の娘を遊ばせていた柴田希実さん(30)が話した。
 低料金の一時預かり、先輩ママや高齢者の協力を得られる育児事業-。同町は家庭保育世帯が気軽に利用できるメニューが手厚い。子ども1人につき月1万5千円の経済支援もある。
 自宅での子育ては孤立感を深めがち。「息抜きや交流の選択肢があるのは心強い」と柴田さん。同所の職員で自身も3人を育てた女性は「支援が共働き世帯に偏らず、地域ぐるみの雰囲気が『もう1人産んでみよう』という気持ちにさせる」と実感を込めた。
 町が子育て重視になったのは、住民投票で合併をしないと決めた約20年前。人口維持のための事業に徹底投資する方針を明確にし、行財政改革を実施した。年間予算40億円規模の自治体にあって約1億6千万円を捻出した。
 全体予算の15%を子育てに充て、小中学校の教材費の無料化や大学生の奨学育英金などの独自事業を創設。高校生に年間24万円の就学支援も目を引く。
 ここ10年の平均出生率は全国の1・3~1・4台に対し、2・3を維持した。転入する家族も増えた。森安栄次総務課長は「思い切った子育て支援に反発していた高齢者にも『まちが元気になった』と理解が浸透した」と変化を明かす。「子育ての町」は広く認知され、国内外からの視察が後を絶たない。
 一方、静岡県内は出生数が減少の一途をたどる。年間出生数は1990年ごろの4万人から、最近は辛うじて2万人という水準まで落ち込んだ。県は毎年、直接間接に膨大な予算を少子化対策に投入するが、手詰まり感が漂う。
 施策効果が見える奈義町も人口は長期的に微減傾向にあり、高校生は卒業すると町を出てしまう課題がある。奥正親町長は行政運営の臨み方について「全てバラ色ではなく、雇用の大幅確保などはハードルが高い。子育て支援の効果も目に見えにくく、時間がかかる」とした上で、「強い信念でやり続け、ようやく成果が出てきたと感じる」と話した。

記者の目 求められる県の主導性
 地方自治体は人口規模も地域事情も千差万別。だから当然、岡山県奈義町の取り組みが静岡県内の市町にも効果を持つとは限らない。ただ、財源の捻出努力や住民との一体感づくり、地道な実践という過程は方向性の一つを示している。
 本県は若い女性の県外流出が顕著で、少子化の進行は他県より深刻。静岡経済研究所の岩間晴美さんは、直接的な育児支援のほかにも「郷土愛の醸成や魅力ある職場環境整備が必要」と指摘する。
 それには分野横断的な推進が不可欠だ。県の主導性が求められるが、川勝平太知事から少子化対策関連の発言は近ごろ聞こえてこない。もっと発信力を高めるべきで、県議会もチェックの目を働かせてほしい。
 県内の出生率と出生数は過去最低になった。地域社会が既に縮小している危機感を県全体で共有し、難局に対応したい。

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