どうする少子化 国と地方ができることとは② 有識者インタビュー【賛否万論】

 全国で進む少子化は、静岡県はどのような実態なのでしょうか。有効だと考えられる対策は。行政はどう対応しているのでしょうか。シリーズの2回目は、静岡県事情に詳しい静岡経済研究所主任研究員の岩間晴美さん(磐田市出身)にインタビューしました。

静岡経済研究所主任研究員 岩間晴美さん
静岡経済研究所主任研究員 岩間晴美さん


鍵は郷土愛と働き方改革
 静岡県の少子化はどのような実態か。
 「出生数は第2次ベビーブームだった1973年に6万3588人でピークとなり、その後は急速に勢いを失った。80年代に5万人を割り、90年代以降は3万人台、2014年から2万人台になった。22年の速報値は2万1772人でぎりぎり2万人台。この半世紀で7割近く減ったことになり、全国と比べても落ち込みは激しい。婚姻数も20年は1万3846件で前年比12.1%減。外出機会が減った新型コロナウイルスの影響も考えられるが、数年後、少子化の進行に拍車をかけそう」

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 「(転出超過を示す)社会減少も大きい。04年までは社会減があっても(出生数が死亡数を上回る)自然増で賄えていたが、高齢化に伴い亡くなる人が増え、自然減と社会減のダブルパンチになった。さらに08年のリーマン・ショックで静岡県の主要産業である製造業が県外、海外に生産拠点を移し、空洞化した。一方、東京はアベノミクスや五輪開催などによる好景気で労働者にとって売り手市場になった。静岡県出身で県外に出た大学生のUターン率は、直近でわずか36%。新型コロナで東京一極集中が緩んだはずなのに、ほとんどの若者が県内に戻ってこない」
 有効な対策はあるのか。
 「郷土愛を育むことが、一つの手ではないだろうか。高校生までに静岡県をよく知る機会を設ける考え方。県内の若者に聞くと、たとえば静岡県の楽器製造品出荷額が全国シェアの7割もあることを知らない。静岡に根ざした産業が実は日本一だとか、世界に通用する企業がたくさんあるということを知らないまま県外に出てしまう。温暖な気候や交通の利便性など、若いうちは気づかない静岡県の豊かさや住みやすさをきちんと授業などで学ぶ機会がほしい」
 「データを見ると、流出人口のうち若い女性の比率が圧倒的に多い。出産適齢期の25~35歳が少ない『少母化』は少子化に直結する。主要産業の製造業は男性の職場というイメージが強いが、女性でも働き続けられる環境整備が大切。女性に選ばれる職場はシニア世代にも働きやすく、人手不足の状況下では企業の生き残りにもなる。快適な現場や待遇・人事の充実などハード、ソフト両面で整える必要がある」
 「女性のロールモデルをつくりたい。昔は、女性は仕事か家庭か-のどちらかしか選択肢がなかった。そういう時代が長く続いた。でも今は男女とも共働きを望む若い人が多い。仕事も家庭も両立できる働き方が欠かせない」
 「雇用形態の改善も忘れてはいけない。静岡県は結婚出産で女性の就業率が落ちる『M字カーブ』は解消されつつあるが、正規雇用率が20代後半でピークになる『L字カーブ』は是正されていない。つまり30代以降の非正規の割合が多く、『就業率は高いけれど正規と非正規の差が広がっていく』状態。新型コロナでテレワークやフレックスタイム制など柔軟な働き方が進んだが、正社員だと家庭との両立が難しい実態を反映している。静岡県は女性の管理職比率が低いのも特徴の一つ」
 政府の「次元の異なる対策」の試案をどう見るか。
 「財源をどうクリアするか、(方向性が示される)6月の骨太方針に注目している。増税あるいは既存の社会保険料に上乗せして追加徴収を行う案などが焦点になる。コンセンサスを得られるだろうか」
 「児童手当の所得制限撤廃や、育休を取得した社員の同僚らに対する応援手当の大幅強化など、それだけで膨大な費用が予想される。経済面のサポートをしようという姿勢は評価できるが、アイデアが盛り込まれすぎで優先順位が見えづらい。試案全体は課題が整理され、対応策がセットになっていて、『全部できたらすごい』という感じ」
 「育休取得率に具体的な数値目標を掲げた点などから、試案は暗に男性の働き方改革をうたっていると感じた。男性の育休取得率を25年に民間で50%に、35年に85%となっていて明確。現状は13.97%。企業が本腰を入れないとハードルは相当高い。育児の最初の時期に関わることは男性のその後の価値観にも影響するから、個人的には1カ月でも(取得を)経験してほしいと思う。自分が休めば後輩や部下の取得にも理解が深まる」
 「企業は時間当たり生産性で評価するなど、仕事の評価軸を変えていく必要がある。例えば子どもを保育園に預けていると早く帰らなくてはいけないから、時短勤務の人は必ずと言っていいほど定時に上がる。時間あたりの生産性がすごく良いはずで、限られた時間で責任を果たす尊さを認めてほしい。男性にも女性にも同じことが言える」
 地方自治体としてやれることは何か。
 「若者のU・Iターンを促進する県の『30歳になったら静岡県』や移住定住施策など、基本的にやれることは努力していると思う。その上で言うとすれば、子どもは年齢に応じてお金がかかる。親の所得に応じた切れ目のない支援が必要になってくることから、優先順位を見極め、どの施策を1番手に持ってくるか。そこから順番に予算を付けるのがいいのではないか」
 「新型コロナで子育てにおいてもデジタル活用が進んだ。例えばLINE(ライン)での育児相談や、学童保育(放課後児童クラブ)の入退所時間の連絡など。デジタルを効果的に活用して預けやすさが進めば、子育てしやすい実感が高まるかもしれない。企業や地域、社会が一体となって子育てを応援する雰囲気を醸成し、少子化に歯止めをかけたい」

静岡県「選ばれる地域目指す」
 静岡県内で急速に進む少子化。静岡県行政は国の動きをどう捉え、政策を実行していくのか。政府が公表した「次元の異なる対策」の試案に対し、県幹部は財源の確保と配分の転換を図る必要性を訴え、県としては「若者に選ばれる地域づくりを進めなければ」と話した。
 試案を巡り政府内では社会保険料の上乗せ案などが浮上している。この県幹部は「人口減少に対する国の危機感は強い」と理解を示しつつ、「国民負担にはコンセンサスが欠かせない」と指摘。医療・高齢者福祉の効率性を高め、少子化対策への財源移転にも努力すべきとした。
 一方、県の対策では県外流出が著しい若い女性を重点にした産業振興や住居支援などを、経済界と連携して行わなければならないと強調した。「このままのペースで人口減少した際の(低下した)社会機能のイメージを県民が共有することも大切」とも語った。

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 県は2023年度、「結婚から出産、子育てまでの切れ目のない支援」や「仕事と子育てとの両立支援」、「伴走型相談サポート」「妊婦に対する経済助成」などに総額252億3500万円を計上し、少子化対策を継続する。
 具体的には大規模保育所への保育士加配を柱とする「子ども・子育て支援給付費負担金」に190億8400万円、結婚支援や移住促進を行う市町への「新・少子化突破展開事業費助成」に1億円、妊娠届けや出生届を出した妊婦らに経済支援を行う市町への「出産・子育て応援ギフト」に18億5200万円など。
 経済の立て直しに向け、次世代産業の振興や既存産業の再生、雇用確保、企業立地なども予算化した。

 いわま・はるみ 2001年静岡銀行入行。06年静岡経済研究所に出向、現在に至る。女性の労働実態や県内の少子化にかかる調査のほか、県内大学生の就職促進に関する研究などに取り組む。磐田市出身。2児の母。

 次週の賛否万論は国の少子化対策の試案について考えます。

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