成長願うお囃子の音、未来へ響け 静岡新聞記者、御殿屋台を体験 浜松まつり

 浜松まつり初日の3日、浜松市中区海老塚町の御殿屋台の町内引き回しと子どもの初練りに、記者が同行した。屋台の上で小学生と共に、お囃子(はやし)の横笛を体験。子どもが誕生した4軒を祝うため、約3キロを3時間かけて練り歩いた。町内を挙げて子どもたちの健やかな成長を願う。まつりの原点を実感した。

小学生らと一緒にお囃子に参加する静岡新聞記者(右端)=3日午後、浜松市中区海老塚町(浜松総局・山川侑哉)
小学生らと一緒にお囃子に参加する静岡新聞記者(右端)=3日午後、浜松市中区海老塚町(浜松総局・山川侑哉)

演奏に苦心 笑顔に感動 練りに鳥肌
 午後6時、大きな海老が背に描かれた青い法被に袖を通し、木製の屋台に乗り込んだ。明かりをともした屋台が鹿島神社からゆっくりと動き始めた。「ガチャマン景気」と呼ばれ、地場産業の織物が好況に沸いた頃の1957年製。高さ5メートル、重さ6トン。海老塚だけに、「鯛で海老を釣る」としゃれた題材の立派な木彫が正面を飾る。側面には花札の絵柄の彫り物も。100人ほどの町民が力を合わせて屋台の綱を引く。
 お囃子は太鼓と鼓(つつみ)、笛、バチでたたく「おおかわ」などを小学生が受け持ち、指導者の大人が三味線を奏でる。緩やかな音色が特徴の「小鍛冶」と指を弾くようにリズムを付ける「四丁目」の2曲。笛の穴を指でしっかり押さえないと音が外れたり、かすれたりする。練習時に、「息を吹き込む穴に下唇を当てて、笛を少し傾けて上唇で穴を覆う意識で」と小学生にアドバイスをもらったことを思い出した。
 総勢12人。屋台が動き出すと左右に体が揺れ、笛を吹きながらバランスを保つのが難しい。坂道で、ガタン。横に並ぶ小学生と「ワッ」と顔を見合わせた。笛を構えると隣と肩がぶつかりそうになり、結構神経を使う。沿道の子どもやお年寄りの屋台を見つめる笑顔が目に焼き付いた。
 初子の家に到着すると、中学生と大人のラッパ隊が威勢よく吹き始めた。コロナ禍の影響で4年ぶり。お立ち台に上がった赤ちゃんと家族の周囲で、屋台を降りたお囃子の小学生や、屋台を引いていた子どもたちが激練りを始めた。「オイショ、オイショ」。両手の拳を高く突き上げ、満面の笑みで万歳を何度も繰り返す。これが浜松の初子祝いか。迫力に鳥肌が立った。
 お囃子の小学生は本番が近づくにつれ、顔の表情が変化していった。地域の伝統を受け継ぎ、未来を担う使命感がひしひしと伝わってきた。華やかに彩られた屋台を見上げ、お年寄りの一人がつぶやいた言葉が耳に残っている。「子どもらが生き生きしていて最高だ。ずっと続けばいいな」

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