発信源に当たる指導必要 チャットGPT、子どもの利用 狩野芳伸・静岡大准教授

 膨大なデータを学習し、質問や依頼に対して人間が回答しているような文章などを提供するプログラム「チャットGPT」。対話型人工知能(AI)などとも呼ばれ、昨秋の公開以降、話題を集めている。学校教育などの面で何が期待でき、どのような課題があるのか。英語や日本語など人間の言語を、コンピューターを使って分析する「自然言語処理」が専門で、講義などでもチャットGPTを扱う静岡大情報学部の狩野芳伸准教授に聞いた。

狩野芳伸准教授
狩野芳伸准教授


 ―チャットGPTの仕組みはどうなっているのか。
 「私たち研究者はチャットGPTのようなプログラムのことを大規模言語モデルと呼ぶ。ある文章について単語を一つ隠し、その単語を当てられるようになるまで毎回隠す単語を変えながら膨大な量の学習をさせる。データを重ね合わせ、統計的に正解とみられる回答をさせる」
 ―小中学生のチャットGPTの利用法について注意点は。
 「自分の考えを深めるツールとしては有効だと思う。ただ、間違った情報が混入する可能性もあり、きちんとした情報発信源の1次情報に当たるように指導すべきだろう」
 ―静岡大など一部の教育機関では、授業担当教員が使用を認めない場合、チャットGPTで得た内容を論文などに記載するのは不正行為とみなすとの方針が示された。教員が学生から提出された論文などをチャットGPTによるものかどうかを見極められるのか。
 「チャットGPTの回答は入力に依存し、日々挙動が変わるため、見極めは困難だと思う。学生も思考力の低下が懸念される。情報学部の学生には関連スキルを磨き続け、むしろAIを使う側に立つよう呼びかけている」
 ―企業などの社員教育にも影響はあるのか。
 「事後チェックが前提になる資料作成の多くは自動化され得る。上司が確認、校正する資料では、部下はAIに代替されるかもしれない」
 ―チャットGPTの性能の限界は。
 「回答の再現性、首尾一貫性に限界がある。チャットGPTに対し、なるべく多く、いろいろなことを聞いてみてほしい。いないはずの人物、起こらなかったはずの出来事が回答に混じり始めるはずだ。また、今のAIは大量のデータを学ばなければ会話のような文章を並べることはできないが、人間ははるかに少ない学習量で会話を成立させる。このため、今後のAI開発では何らかの工夫の余地があるはずだというのが私たちの考えだ」
 ―チャットGPTを開発したオープンAIのように限られた企業が資金や大量のデータを持ち、一部プログラムは非公開。少数企業の独り勝ちも懸念される。
 「この数年来、資金とそれによる計算資源、データを持った企業が研究開発で優位なのは変わらない。ただ、ライバル企業も競って対抗馬を出し、中には完全公開モデルもある。最終的には公開版が一般的になり、性能差もそれほどないという未来を期待する。ただ、企業も多額の開発投資を回収する必要があり、不透明な状況だ」

 チャットGPT 米国の新興企業オープンAIが2022年11月に公開したプログラム。オンライン上で質問をすると、人間が考えたかのような一見自然な文章などが回答される。回答のために、テキストなどの大量のデータを重ね合わせている。「対話型AI(人工知能)」と呼ばれることがあるが、回答文はプログラムによって生成され、論理的に構成されているわけではない。このため、研究者の間では「対話」の呼称を疑問視する声もある。

 かの・よしのぶ 2001年3月、東京大理学部物理学科卒。11年3月、同大博士(情報理工学)。同大特任研究員、科学技術振興機構さきがけ研究者などを経て14年10月から現職。浜松市中区出身、44歳。

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