給食費の徴収と管理どうなっているの? 学校から行政へ移行進む【NEXT特捜隊】

 「不登校の娘が学校に行きたいと言うのですが、担任の先生から『給食費の支払いが止まっているので給食を食べられません』と言われました」。小学4年の娘を持つ静岡市駿河区の40代女性から静岡新聞社「NEXT特捜隊」に声が寄せられた。女性いわく「給食費の制度やお金の流れがどうなっているのかよく分からない」とのことだ。

学校給食費における公会計と私会計の比較
学校給食費における公会計と私会計の比較

 女性が言うように、支払った給食費がどのように使われているのかまで意識することは、あまりないかもしれない。
 給食の経費は学校給食法で定められていて、保護者が負担するのは食材費のみ。人件費や施設管理費などは学校設置者の市町が負担している。
 不登校や病気で長期間欠席が続く児童生徒は給食を止められる。県内では自治体や学校ごと要件は異なるが、多くの場合は届け出から数日~1週間で給食費の減額が適用される。ただ、申請中の数日分は食材の発注変更が間に合わないため、食べなくても給食費が発生する。

私会計と公会計
 近年、学校給食を巡り全国的なテーマとなっているのが給食費の徴収・管理。給食費の会計は徴収や督促を学校が行い学校会計の中で処理する「私会計」と、給食費を自治体の会計に組み込む「公会計」がある。教職員の業務軽減などを目的に、現在は全国的に公会計化が進んでいる。
 私会計では教職員が徴収や督促などを担当し、大きな負担となるケースが指摘されてきた。学校ごとにルールがあり、給食運営の全体像は保護者から分かりづらい。家庭への情報発信を十分に行っていない学校もあり、透明性の確保が課題とされている。
 公会計は自治体会計に組み込むことで効率化や監査体制の充実が見込まれ、徴収や督促なども自治体が担う場合が多い。県内で公会計を導入している25市町のうち、およそ半数が管理業務も行っている。
 「負担はとても軽くなった。利点しかない」と効果を語るのは、本年度から公会計に移行した富士市教委の担当者。同市は学年費や修学旅行の積み立て費、PTA会費も給食費との一括徴収とし、保護者の負担も軽くした。同市が2018年に行った調査では、公会計化によって1校当たり、年間190時間の業務時間の削減を見込んでいる。
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保護者に周知を
 投稿者の女性の娘が通う小学校を管轄する静岡市は私会計。市教委に聞くと、全ての学校のルールや事情を把握することは難しいという。担当者は「各校のやり方を尊重し、管理や情報発信について関わっていない」と説明する。
 給食費の制度について伝えると、質問を寄せた女性は「学校に支払うお金の流れや仕組みを保護者が完全に把握するのは難しい。公会計でも私会計でも、学校や市教委側が周知に力を入れてほしい」と話した。

教職員と家庭の負担軽減 島田桂吾 静岡大准教授(教育行政)に聞く
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 文部科学省は2019年、教職員の働き方改革の一環で、給食費の公会計化を推進するガイドラインを公表した。県内で公会計を取り入れている自治体の多くは、ここ数年の間に移行している。これまで私会計が主流だったのはなぜなのか。公会計化に課題はないのだろうか-。教育行政が専門の島田桂吾静岡大教育学部准教授に聞いた。
 学校給食が始まったのは明治期。島田准教授によると、一部の学校で提供が始まり各校で独自に給食費を徴収してきた。戦後、学校給食法により給食費は保護者負担とされ、「学校徴収金」として学校が管理する私会計となった。私会計は基本的に学校と家庭間のやりとり。徴収や督促の裁量は学校側にあり「ある意味、柔軟な対応ができた」。
 公会計化への全国的な流れは「教職員、家庭双方の負担が軽くなる」と評価する。滞納家庭への対応として、児童手当からの振替も選択肢になる。徴収がしやすくなり、保護者負担の公平性の点からも利点だ。私会計では家庭への周知は学校ごと異なるため、同じ自治体内でも差が出る。公会計は自治体の監査や広報による情報提供があるので、透明性も確保される。
 一方、島田准教授は公会計の課題も指摘する。「徴収を担う行政の説明責任がより重要になる。口座振替は便利だが、給食費を支払う実感が薄れやすいのではないか。費用の目的や金の流れについて、十分な情報発信がないと理解を得られない」と強調した。
 公会計化には新しい会計システムの導入が必要で、その費用や実務を担う人員確保が難しく、自治体が移行をためらう要因になっている。島田准教授は「教職員が担ってきた業務を行政内でどう分担するのか、これまでの『文化』を見直す機会になれば」と語った。

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