⚽名門サッカー部と「幸せな時間だった」 藤枝東高生の宿舎・ホテルシルビアが今夏閉業 OBら名残惜しむ
サッカー名門校の藤枝東高の部員が宿舎として利用する藤枝市稲川のホテルシルビア(菊川一夫社長)が今夏ごろをめどに、経営難を理由に閉業することを決断した。同校をはじめ、市内の高校サッカー部員らの生活を長年にわたって支えてきた施設が、惜しまれながら幕を閉じる。
菊川社長(80)と副社長の妻千枝子さん(79)が1985年、知人の依頼で吉田町から通う藤枝東高のサッカー部員を自宅で受け入れたのがきっかけ。試合を見に行き続けると、知識がなかったサッカーを好きになったという。預かってほしいと頼まれる部員の人数も徐々に増え、96年に部員たちの部屋をホテルに移した。
2006年からは女子サッカーの強豪、藤枝順心高のサッカー部員も利用を開始。ホテルの一般営業から宿舎として運営を切り替え、同校の柔道部員らも含め、ほぼ満室となる70人以上を引き受ける年もあった。
ところが、藤枝順心高は新しい寮が完成したため、今年3月末までに卒業の3年生と現役部員の計37人が退去。ホテルの経営は行き詰まり、菊川社長は苦渋の決断を下した。千枝子さんは「信頼の絆を結んできた選手たちと会えなくなるのが悔しい」と声を震わせる。
ホテルには、元日本代表のドイツ1部リーグ、アイントラハト・フランクフルト所属の長谷部誠選手(39)をはじめ、高校時代に宿舎を利用していたジュビロ磐田の山田大記選手(34)=浜松市出身=ら藤枝東高OBのサイン入りユニホームやスパイクなどが飾られている。同校と藤枝順心高の歴代の賞状や写真も展示され、部員の励みになっていた。
正月に集まったり、結婚して生まれた子どもを見せに来たりする卒業生もいた。菊川社長は「子どもたちとの生活は人生の中で誇りに感じる」と部員と過ごした日々を思い返す。
ホテルに残る藤枝東高の現役部員は準備が整い次第、市内の新しい宿舎に移る。「本当に幸せな時間だった。歴史ある藤枝のサッカーが人として礼儀を尽くした素晴らしいものであるように、生徒をずっと応援していきたい」と千枝子さん。絆と思い出を胸に、少し離れた場所からこれからも見守り続ける。
OB、名残惜しむ
藤枝市稲川のホテルシルビア閉業に、高校時代に宿舎として利用した藤枝東高OBからは名残惜しむ声が上がる。
Jリーグや海外でプレーした社会人サッカークラブ岳南Fモスペリオの赤星貴文選手(37)=富士市出身=は、高校卒業時に菊川さん夫婦が贈った試合結果など3年間の新聞記事をまとめたアルバムを今も大事に持っている。「3年間、親代わりになってくれた。宿舎で育った生徒はみんな感謝している。思い出に残っていると伝えたい」と語った。
藤枝MYFCの平尾拳士朗選手(22)=愛知県出身=も「毎日、登校時は見送り下校時は出迎えてくれて、藤枝の親代わりだった。(閉業は)残念」と寂しさを口にした。