間質性肺炎の急性増悪 リスク判断モデル開発 世界初「HALスコア」 浜松医科大・柄山副センター長らグループ

 肺がゆっくりと硬くなる指定難病の特発性間質性肺炎で、病状が急に悪化する「急性増悪(ぞうあく)」は致死的な特殊病態であり、予測が極めて難しいとされる。浜松医科大付属病院腫瘍センターの柄山正人副センター長らのグループがこのほど、統計学的な手法を使い、比較的単純な3要素から予測する「HALスコア」を世界で初めて開発した。高額な治療薬の投与や、患者の体に負担の大きい手術をするかどうかの判断の補助に役立つとみている。研究の成果が5月、欧州呼吸器学会誌で公表された。

正常な肺の胸部CT画像(柄山副センター長提供)
正常な肺の胸部CT画像(柄山副センター長提供)
特発性間質性肺炎の病状が進んで繊維化が進行し、蜂巣肺(矢印で示した部分)の所見がある胸部CT画像(柄山副センター長提供)
特発性間質性肺炎の病状が進んで繊維化が進行し、蜂巣肺(矢印で示した部分)の所見がある胸部CT画像(柄山副センター長提供)
柄山正人副センター長
柄山正人副センター長
HALスコアによる急性増悪の累積発症率の違い。スコアが2因子以上は明らかに累積発症率が高かった
HALスコアによる急性増悪の累積発症率の違い。スコアが2因子以上は明らかに累積発症率が高かった
正常な肺の胸部CT画像(柄山副センター長提供)
特発性間質性肺炎の病状が進んで繊維化が進行し、蜂巣肺(矢印で示した部分)の所見がある胸部CT画像(柄山副センター長提供)
柄山正人副センター長
HALスコアによる急性増悪の累積発症率の違い。スコアが2因子以上は明らかに累積発症率が高かった

 研究は、487例の患者集団から特発性間質性肺炎の急性増悪について複数のリスク因子を洗い出すことから着手した。ある因子は直接疾患に関わるが、他の因子は別の因子と結びついて疾患に関わるだけで、単独では無関係という場合も見られた。
 このため、統計学の「多変量解析」を用い、直接疾患に影響がある①胸部コンピューター断層撮影(CT)で、肺が硬く縮んで蜂の巣のように見える「蜂巣肺(ほうそうはい)」の所見②年齢が75歳以上③血液検査でLDH(乳酸脱水素酵素)が222より高い値―に絞り、この3因子からなるモデルを「HALスコア」と名付けた。
 さらに、別の402例の患者集団でも、このスコアに当てはまる人が急性増悪と関連することが統計的に有意に確認できたという。
 3因子とも、単純な検査でピックアップできるのも大きな特徴。HALスコアを用いれば、特発性間質性肺炎の患者が高額な薬による積極的治療を受けるかどうか選択の助けになるほか、急性増悪につながる可能性がある手術を行うかどうかの判断基準になる。
 柄山副センター長は「患者にとって息苦しさは傷の痛み以上に耐えがたく、息苦しさを和らげる薬も痛み止めに比べて少ない。開発したスコアが医療行為の判断の補助になってほしい」と期待する。

 <メモ>特発性間質性肺炎 肺の組織がゆっくりと硬くなる「繊維化」によって縮み、肺のガス交換がうまくできなくなる原因不明の疾患。通常は長年にわたって徐々に進行するが、突如として急速に病態が悪化する「急性増悪」が起こることもある。予測は困難で、一つ一つの因子については急性増悪との関連が考えられてきたが、複数の因子を組み合わせて予測するモデルは開発されてこなかった。

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