黒潮大蛇行、過去最長の丸6年へ 駿河湾に今夏、海洋熱波が襲来か

 本格的な観測が始まった1965年以降で最も長い期間続いている黒潮大蛇行が今夏、丸6年になろうとしている。長期化に加え、三重県の熊野灘沖から、東海地方沖をなめるように通る流路を取り、静岡県周辺の自然環境を形成する重要な要素となっている。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の美山透主任研究員(53)は今夏、駿河湾に「海洋熱波」が襲来する可能性を指摘し、漁業や気象への影響を注視している。

美山透JAMSTEC主任研究員
美山透JAMSTEC主任研究員
6月6日時点の黒潮大蛇行。矢印は海流(メートル毎秒)、色は平年(1993~2020年)に対して何度高いかを示す(JAMSTEC提供)
6月6日時点の黒潮大蛇行。矢印は海流(メートル毎秒)、色は平年(1993~2020年)に対して何度高いかを示す(JAMSTEC提供)
美山透JAMSTEC主任研究員
6月6日時点の黒潮大蛇行。矢印は海流(メートル毎秒)、色は平年(1993~2020年)に対して何度高いかを示す(JAMSTEC提供)


漁業や気象、影響注視  

-黒潮大蛇行が弱まる気配はあるか。
 「見られない。過去の黒潮大蛇行は伊豆諸島沖を通過していた。2017年8月から続く黒潮大蛇行は当初はその流路だったが、18年後半からは東海地方の沿岸部に近づいたまま。本格観測が始まる前には10年以上も続いた黒潮大蛇行もあった。現在、駿河湾の海水温は例年より数度程度高い。表層で水が膨張、蒸発しやすい状況だ。漁業環境や気象環境に対して影響が長期に及ぶ点に着目すれば『スーパー黒潮大蛇行』とも言える」

-漁業への影響は。
 「昨秋から今春にかけて駿河湾では水温が高かった。サクラエビなどの生物の成育にはプラスに働いたかもしれない。今年も、インド洋や太平洋の熱帯での水温分布から、日本は猛暑になるという予測もある。黒潮大蛇行の影響が加味されることで、駿河湾にも海洋熱波が訪れると考えられる。表層の高水温は海の中の鉛直方向の対流を抑制する。深い海から栄養塩の供給ができず、植物プランクトンが育たない。卵からかえった幼生などが餌不足に陥る可能性がある」

-昨秋の台風15号や今月の大雨など水害が連続している。黒潮大蛇行との関係は。
 「影響はゼロではないのでは、と考えている。水害などに与える影響について、現在、日本海洋学会などでもシミュレーションが提出され、議論されている。黒潮大蛇行の研究は比較的新しい分野だが、市民には身近な自然として関心を持ってもらいたい。社会インフラなどの更新時、加味しなくてはならないファクターにもなりうる」

 海洋熱波 数日から数年にわたり急激に海水温が上昇する現象。発生頻度は過去100年間で大幅に増加しているとされる。美山主任研究員らのグループは2010年から16年まで北海道・東北沖の親潮域で毎年夏に発生したことを示した。北海道太平洋側のブリの漁獲量増とは有意な統計的関連があった。

 みやま・とおる 理学博士(京都大)。専門は海洋物理学で、JAMSTECのサイト「黒潮親潮ウォッチ」を担当する。富士市在住。

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