花火の夏 浴衣のまち沸く コロナ3年耐え需要回復 浜松の注染業者や呉服店「萎縮一転、熱気に」

 隅田川花火(東京)、ふくろい遠州の花火(袋井市)などの4年ぶりの開催が決まり、夏の風物詩の花火大会や祭りが新型コロナウイルス禍からの本格的な復活に向かっている。伝統染め技法「注染そめ」で知られる浴衣の産地、浜松市にも活気が戻りつつある。感染状況が沈静化しない様子見の状況でスタートした今季は、見本の製作や商談、発注などのスケジュールが例年よりやや遅くなったが、染め物業者は急ぎ受注に対応し、呉服店では浴衣の仕立てを希望する消費者が増加した。

注染浴衣の購入者のコーディネートに当たる大石麻衣子さん(左)=17日、浜松市中区の「ファッションきもの いしばし」
注染浴衣の購入者のコーディネートに当たる大石麻衣子さん(左)=17日、浜松市中区の「ファッションきもの いしばし」


 「新型コロナの感染症法上の5類移行や花火の開催決定で浴衣が動き出し、安心した」。注染そめなどの浴衣の企画や卸販売を手がける「白井商事」(同市南区)の白井成治専務(56)は、コロナ禍で受注が停滞した苦渋の3年間を振り返りながら語る。今季は新柄、新色を約20種増やして商談に臨んだ。「生産側の体制が整い切らない部分もあり、注染浴衣の生産はコロナ禍前の7割程度。来季こそは通常に戻るのでは」と予想する。
 「二橋染工場」(同市中区)は巣ごもりで手ぬぐい需要が伸びたのに加え、注染浴衣の仕事が一気に回復し、仕事が集中した。二橋教正代表(61)は「浴衣向けはコロナ禍で仕事が9割減った。今はうれしい悲鳴だが、ニーズに追いついていない状況」。静岡県外産地ではコロナ禍や高齢化で店を閉じた同業者もいるため、「産地として需要に応えるためにも、職人の育成や人材確保が急務」と話す。
 中心街の呉服店「ファッションきもの いしばし」(同区)は、店頭に約50種類の彩り豊かな浜松注染浴衣の反物を随時並べる。今年の仕立て注文は、コロナ禍の3年間の平均に比べて3倍以上になり、新規の顧客が広がった。1反2万円台の価格帯が売れ筋という。営業販売担当の大石麻衣子さん(51)は「萎縮した気持ちから一転、新しい浴衣で外出したいという熱気を感じる」と喜ぶ。
 一方、コロナ禍を機に、取引があった和裁士の引退や原材料高に伴う価格上昇など環境変化もあった。大石さんは「通気性が良く、柔らかい風合いの注染浴衣の魅力を文化として発信していくのが使命。レンタルもある。まずは着てみてほしい」と熱を込める。

 <メモ>浜松の注染による浴衣染めは大正時代に始まったとされる。にじみやぼかしを生かした深みのある多彩な染色が特徴。県郷土工芸品に指定されている。浜松織物染色加工協同組合(2019年3月解散)のまとめを基にした県浜松工業技術支援センターの資料によると、17年度のゆかた加工量は3万9000反で、20年前の1997年(30万5000反)の10分の1だった。県繊維協会は7月8、9の両日、浜松市中区の市ギャラリーモール・ソラモで「注染・ゆかた・和装展」を開き、染めと織りの伝統技術を発信する。

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