慢性的人手不足の建設業 風穴あけるか 静岡の企業、人間力見て積極採用【70歳の壁 シニア雇用を考える】

 生産年齢人口の減少で空前の人手不足が続く中、その代表業種とされる建設業でシニアの活用や人材獲得の取り組みが進んでいる。「きつい」イメージがある業界だが、シニアを積極採用する企業は若手と異なる仕事を切り出し、高齢でも体力的に対応できるように配慮。求職するシニアに直接会って人となりを見極めるなど「年齢の壁」を取り払う工夫を重ねている。シニア雇用に積極的な静岡市の企業の事例を追った。

75歳でも若手社員に謙虚な姿勢で接する佐野勝重さん(右)。菅野敬介社長(左)はその人間性を評価する=3月、静岡市駿河区
75歳でも若手社員に謙虚な姿勢で接する佐野勝重さん(右)。菅野敬介社長(左)はその人間性を評価する=3月、静岡市駿河区

 同市を拠点にする菅野工業は昨年10月以降、シニアを重視した雇用戦略に力を入れるようになった。菅野敬介社長(38)は「70歳以上の人を敬遠する企業もあるが、自分は年配の人の力も借りたい」と明かす。採用を判断する際は「電話だけで断らず、会って話をしてみる」という姿勢で、面接だけでなく実際に仕事をしてもらって人材を見極めることもある。従業員26人のうち6人が60代以上で「シニアと若者がお互いに気持ち良く働けているか、日々確認している」と人材の定着にも気を配る。
 今年2月に採用された佐野勝重さん(75)=同市駿河区=は週2日ペースで働く。勤務時間帯は午前8時から午後5時までだが、仕事内容は解体工事現場の後片付けや清掃、粉じん対策の散水、車両の運転などで若手社員のサポート役に回る。佐野さんは「体力的にきつい感じはない」としながらも「若い人と同じ仕事はできない。会社側も無理しなくていいと言ってくれている」と説明する。
 採用されるまでにアプローチした他の企業には年齢を理由に断られることが多かった。同社からは「まずやってみましょう」と声をかけられた。就職後は若手社員と積極的にコミュニケーションを取るように心がける。建築の仕事に携わった経験はあるが「それよりも昔、飲食店でいろいろな人に接客した経験が生きている。若い人と話すのが楽しい」と笑顔を見せる。
 菅野社長は佐野さんに対し「年上なのに謙虚さがあり、人としても魅力的」と敬意を込め、シニア活用の秘けつを「人間力に注目している」と教えてくれた。

  「高齢者いないと成り立たない業界」
 「高齢者がいないと建設業は成り立たない」。業界関係者から、こんな声が上がるほど人材不足は深刻化している。職人の勘と経験に頼っていた仕事を簡略化、機械化する動きは進んでいるものの限界もある。静岡建設業協会の市川照会長は「建設業はオーダーメードの仕事が多く、どうしても人の手が必要になる」と人材の重要性を説く。
 複数の業者は「求人を出しても若手が集まらない」と口をそろえる。外国人労働者も制度の使い勝手が悪く「なかなか入ってこない」という。建設業には専門的な技能が必要とされる職種もあり、定年を引き上げて社員の囲い込みで対応する企業が目立つ。
 業種別のシニア雇用の事情に詳しいリクルートの宇佐川邦子ジョブズリサーチセンター長は「建設土木業界は経験者不足も深刻だ。採用人数を増やすだけでなく何歳になっても活躍し続けられる仕組みを準備することがより重要になる」と指摘する。シニアはフルタイムよりも週15時間前後の短時間勤務を好む傾向があり、忙しい時期とそうでない時期の差がある建設業はシニアの志向に合わせやすいという。

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