時論(7月16日)感想文「とにかく書け」の前に

 毎夏、読書感想文の課題図書をコラム「大自在」のねたにしている。筆者も夏の宿題。普段は随筆集や短編集など、どこからでも読める本が多いので、こうすることで読書の範囲を広げてみようと。
 読めば、なるほど選ばれた本だけのことはあると思う。読み取らせたいことも想像がつく。だが、そんな大人の要求に応え、さらに作文というのは苦行だろう。読書感想文は苦手だ、嫌いだという子が少なくないのは無理もない。
 「とにかく書いてみなさい」と大人は言うが、泳ぎが上手でない子を足のつかない所へ連れていくようなものではないか。話すことと書くことは違う。
 書くことは考えることだとよく言われる。何を書くか決めて書き始め、書いているうちに考えがまとまってくる。そうして読解力や要約力、表現の工夫を習得するというのは、先生方の言う通り。
 読書感想文の上位入賞作品集を見ると、「○○(本の題名)を読んで」というのは少なく、言いたいことをタイトルにしている。
 背骨が通った作文の秘訣[ひけつ]は、書き始める前に家族や友達と、その本を話題に話してみることではないだろうか。印象的な場面、登場人物の言葉や行動を自分に重ねてみて、自分ならどうしたかを考えて文章にしてみてはどうか。
 文部科学省は、対話型人工知能(AI)の活用法に「グループ討論でアイデアの参考にすれば議論が深まる」と例示。だが、「対話」の相手はAIではなく人間であるべきというのは言うまでもない。
 気がつくと、児童生徒向けの本も新聞記者として読んでいる。コラムを書くために読むというのは姑息(こそく)かも。しかし、書き上がると毎回、読んでよかったと思う。
(論説副委員長・佐藤学)

 

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