富士山噴火の兆候時 登山者避難 誘導や安否確認方法は 役割増す山小屋

 富士山の火山避難基本計画が今春、改定された。一般住民の避難よりも早い、噴火の兆候が確認された段階で5合目よりも上にいる登山者は下山が求められる。山小屋関係者が避難誘導しながら一緒に下山するが、誘導の方法や登山者の安否確認など課題が山積する。ピーク時には約8千人が登る富士山。安全で円滑な避難へ、普段から富士山で活動し、山を熟知する山小屋関係者の役割は増している。

模擬登山者に下山を呼びかける山小屋従業員(左)。円滑な避難へ山小屋の役割は増している=7月中旬、富士山富士宮口6合目
模擬登山者に下山を呼びかける山小屋従業員(左)。円滑な避難へ山小屋の役割は増している=7月中旬、富士山富士宮口6合目

 7月中旬の富士宮口6合目。気象庁から噴火警戒レベル2に相当する「火山の状況に関する解説情報(臨時)」が発表された想定で、情報伝達訓練が行われた。山小屋従業員が拡声器を手に下山を呼びかけた。訓練冒頭には登山者にどう伝えるべきか分からず戸惑う従業員の姿や、一般登山者の接客に追われて下山指示の伝達訓練に参加できなかった山小屋もあった。
 県は2015年度から周辺市町や山小屋などと連携し、情報伝達訓練を行っている。模擬登山者に拡声器で伝えるまでの手順の確認が中心で、実際の誘導までを想定した訓練はこれまでにない。噴火口の位置によっては登山道の迂回(うかい)や麓までの自力下山などが考えられる。富士山表富士宮口登山組合の山口芳正組合長は「さまざまな想定が必要だが、毎年、下山を促す訓練ばかりになっている」と不安視する。
 各小屋の防災意識に差があるとの指摘も。ある山小屋関係者は「行政から訓練だと言われて従っているだけの小屋もある」とし、行政と小屋との日頃からの連携強化や防災意識向上を課題に挙げた。
 山小屋から登山者への呼びかけや避難誘導は限界がある。拡声器を使っても声が届く範囲は半径30メートルほど。噴火警戒レベル3のうちに山小屋関係者を含めて下山をしなければならない。山口組合長は「従業員の命も大事。登山者全員の下山を見届けるのは不可能」と強調する。県危機管理部の黒田健嗣危機管理監は登山者の安否確認について、「登山届の機能があるアプリの利用を促すのが今できる中では確実な方法」との認識を示す。その上で「実際の避難誘導などの良い事例があれば、防災計画を策定する市町に共有していく」と述べた。
 (社会部・中川琳、富士宮支局・国本啓志郎)

噴火に特化 消防団任命「公務員の立場で下山求める」 山梨・富士吉田市 山小屋関係者ら
 山梨県富士吉田市は5月、吉田口の山小屋と売店の代表者ら計18人を噴火対応に特化した機能別消防団「富士山隊」に任命した。組織体系を明確にして的確な避難につなげるのが狙い。負傷時には公務災害の対象となる。
 吉田口ではこれまで山小屋や売店が自主防災組織をつくり、行政、警察、消防と避難訓練を行ってきた。同市の富士山火山対策室によると、民間の立場で避難誘導することへの不安があった山小屋関係者らからの相談があり、円滑で安全な活動ができる方法を検討。世代交代をしても知識や技術を継承できる組織の必要性などを考慮し、機能別消防団の制度を活用した。
 富士山隊隊長に指名された富士山5合目観光協会の小佐野昇一会長(56)は「民間人より公務員の立場の方が、下山の呼びかけに説得力が増す」と期待する。万一、活動中にけがをしても消防団員であれば治療費の補助などが受けられる利点もある。今後は避難誘導や訓練の講習会などに参加するという。

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